大阪の街は今日も賑やかであった。賑わう人々の声、明るい笑い声、関西ならではの温かい雰囲気である。大阪の街は活気に溢れていた。


そしてここにも1人。
一際目立つ、赤い髪。




「100円足らんー!!」


豹柄のタンクトップが目に入る少年、遠山金太郎は巾着で出来た財布を見て、誰よりも大きいであろう声で叫ぶ。

たこ焼きの列に並んでいた遠山は自分の番がきて、財布を開けたところ100円足りないと言う事実に叫号。小さな少年が店の前で騒ぐというものは、どうも目立つ。店主も少し困ったように遠山に話しかける。


「いや〜…金ちゃん、流石に今日はキツイで」


実は遠山、この店に何回かオマケというものをしてもらっている。積み重なったそれは巨大に膨らんで、限界という所まで辿り着いてしまう。


「ええ!!ワイ腹減ったんや〜!!」


彼のまん丸で大きな瞳にうるりと雫が溜まる。子供らしいその表情に店主はうっと言葉を詰まらせた。赤い髪をぶるぶる振るわせ、嫌だ嫌だと駄々をこねる。ここには遠山を止めてくれる部活の先輩達は誰もいない。ストッパーのいない今、どう彼を止めたら良いのか。

どうしようかと思っていた時、遠山の横をスッと抜けて、コトンという硬貨特有の音が聞こえた。
顔の横を通った腕に遠山は目を向ける。





「あの…これで1つ、お願いできますか?」



透き通ったその声は日向である。ブラウンの髪が遠山を掠め、彼はくすぐったそうに顔を歪めた。代金を払うと、たこ焼きを受け取り、遠山に行きましょうと一声かける。こくんと頷く彼は小さな子供のようで可愛らしかった。









「どうぞ」


にこりと笑ってたこ焼きを差し出すと遠山はぎこちなく受け取る。いつもの彼からは想像出来ない姿で遠慮がちに彼女を見つめた。


「あっ…すみません、見ず知らずの人間なのに急に…ご迷惑でしたよね、」


遠山相手に敬語とは可笑しな話だが、これは彼女の癖である。
遠山が自分を怪しんでいると思った彼女は悲しげに俯いた。何となくだが、ほっとけないと感じで、話しかけてしまったが、もしかしたら迷惑だったのかと怖くなってしまう。

そんな彼女を見て、遠山はあわあわと慌てた様子で首を勢いよく振った。


「ちゃ、ちゃう!…あんな、姉ちゃん、ワイのこと知らんのに、これ…買ってくれて…」


不安げな大きな瞳が日向をじぃと見つめる。子犬のような湿った目に日向はぼんやりと母性を感じた。人見知りの彼女でも、どことなく接しやすく、構ってあげたくなる愛嬌溢れる遠山。

自然と手が彼の頭を撫でる。
突然のことで遠山は、ふへっと変な声を漏らした。



「うあっ…!ご、ごめんなさい!つい…」
「え、ええよ!!あんなっ、あんなっ…!」



止めようとした手を掴み、ぎゅうと握った。ピンク色をした彼のほっぺたを日向は不思議そうに見る。



「…気持ちかったから、もうちょっと、なでなでしてくれへん?何や、姉ちゃんできたみたいでワイ嬉しい!!」
「(きゅん)」


へへへと照れ笑いする遠山は何とも愛らしい。姉と言ってくれることが彼女も嬉しくて、器用な細い指はくしゃりと彼の髪を再び撫でた。


「ワイ、遠山金太郎言います!よろしゅうよろしゅう!」
「私は陰野日向です」
「じゃあ日向姉ちゃんやな!」


嬉しそうに日向の名前を呼び続ける遠山に彼女の心はポカポカ温かくなる。安心してたこ焼きを食べ出す彼は幸せそうで、見ているこちらも同じ気持ちになるものだ。

遠山の笑顔は不思議な力があるな、と日向もまた、ふわりと笑う。



「(わぁー…!姉ちゃんの笑った顔見ると、ワイもめっちゃ嬉しくなる!)」


また日向にも同じような力があることには彼女は気付くまい。






(あ、口元ついてますよ)
(んん…!お、おーきに!)
((?ほっぺた、赤いなぁ…火傷しちゃったのかな…?))
((わわわ…!何かめっちゃドキドキした〜!病気なんか!?白石に聞いてみよ!))




その気持ちは金ちゃんにはまだ早い、かな?


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