日陰さん…否、日向さんの白くて小さな手を握ったまま再び駅へと戻る。さっきみたいな男共に絡まれんように、強く引いた。まるで、俺のやと主張しとるみたいに。


「あの、財前くん。ええと…どこ行くの?」
「俺がオススメした店。日向さん行こうとしとったみたいやし、案内しますわ」


ほどよい高さの声で名前を呼ばれることが酷く心地良い。耳幸せや。


「え…で、でも、!」
「俺が行きたいんス。ね?日向さんお願い」


こんなチャンス逃すわけにはいかない。覗き込んで、なるべく可愛い風にお願いをしてみる。キャラやないけど、もうこの際キャラとかあらへんから。

言葉を詰まらせ、オロオロする日向さんはその後小さくコクリ頷く。ごめんなさいと小声で呟く彼女の頬は少しばかり色艶良く染まっていた。
えー…何この人。可愛すぎて辛いんやけど。今時こんな人がおるとか泣けるわ。


「ええですって。俺が行きたいんやし」
「あ、ありがとう…」


彼女は綺麗に目を細め、にこりと笑った。その笑顔は心を容易に打ち砕く。

ずっと会いたいと願っとった日向さん。メールでのやり取りだけやけど、顔も知らない俺にも優しかった。顔やなくて中身と会話してくれた。大好きな声と想像よりも何十倍もかわええ顔と穏やかで優しい性格の彼女に俺の心臓が奪われたみたいやった。


「そうだ。日向さん、歌聞かせて下さいよ」
「うぇ…!き、機会があれば…」


めっちゃ嫌そう。まあ、人前で歌うのとか苦手そうだし。…よし、機会作ったろ。


「あ、この電車乗ります」


到着した電車に乗り込むと、思いのほか満員だった。うーわ最悪や。とりあえず日向さんの手をしっかり握ってはぐれないようにする。

いやー…それにしてもぎょうさんおるな。男多すぎてむさ苦しいわ。



「…ん?」


ゴツイ手がこっちに伸びてくる。それは明らかに彼女の白い細い足を狙っていた。

…コイツ殺してええかな。
俺が傍におること分かっとるんかボケ。
徐々に徐々にと近付いてくる手とうざったいおっさんの息遣い。



「人のモンに手、出さんといてくれます?」


パシッと手首を掴むと、おっさんはぎょっと顔を青くさせる。日向さんは状況把握が出来ていないようでキョトンとしていた。


「この人に手出そうとした罪は重いで」


次の駅で駅員に引き渡してやった。見逃すわけあらへんやろ。くそ、殴りたい。


「日向さんこっち」
「えっ…?」


壁側に日向さんを寄せ、両腕の中に挟んでやる。突然のことに日向さんは驚いたようで、頬を赤く染めていた。


「嫁が痴漢にでもあったら大変ですから」
「あああのっ!ざ、財前くん…!ち、近い、です…!」


電車の中、人が多いことを理由に日向さんの小さな体をぎゅうと抱き寄せる。うっわ、柔らか。めっちゃええ匂いするし、何なん。

バタバタと腕の中で抵抗する日向さんの顔にぐっと近付き、耳元で囁く。



「大人しゅうして下さいね」
「ひゃっ…!」



ふぅと息を吹きかけると、かわええ声で控えめに鳴き、ピタリと固まった。今の声、めっちゃ興奮するんやけど。

電車の中で日向さんを思いっきり堪能させてもらった。降りたとき、真っ赤な顔で目を潤ませたので襲ってやろうかと思ったほんの一瞬。


手を握り、また歩きだしても振り払わないでいてくれるのは優しいなと思う。
しばらく歩き、甘味処に着くと日向さんは、ほぅと感嘆の声を漏らす。


「わぁ…古風で落ち着きのあるお店だね。こういう雰囲気、好きだなぁ、」


そういう日向さんはこの古風な感じが似合う。着物とか浴衣とか絶対似合うやろ。おお、想像してもうた。ヤバ。


「はい、これ善哉です。俺の一番好きなのッス」
「あっ…買ってきてくれたの?ごめんね…いくらだったかな?」


日向さんが魅入っている間、善哉を買うてきた。当然奢りだから、お金を受け取るのは拒否や。格好つかへん。日向さんは最後の最後まで渋ってたけど、結局折れてくれた。


「さ、食べましょ」
「い、いただきます…」


あんこと白玉と生クリームだけのシンプルな善哉。でもこれがまた最高やねん。
ぱくりと一口入れると、彼女はぱあっと目をキラキラさせ、ふにゃりと頬を緩めた。え、かわええ。


「本当、美味しいね」


「財前くん食べないの?」と首を傾げるが、俺はその幸せそうな日向さんの顔が見られて腹いっぱいです。


「あっ…」


ふと、日向さんの口元にクリームが付いているのが俺の目に映る。


にやり


「あー、日向さん、やっぱりいただいていいですか?善哉の代金」
「ふふ、財前くんがやっと折れた」


代金を要求して、こないな笑顔見たの初めてや。いやいや、ちゃうねん。



「んじゃあ、いただきます」



ちゅう、と口元のそれを目掛けてキスをする。日向さんは、それはそれはびっくりして、頭から湯気でも出てしまうくらいのパニック状態やった。


「ざ、財前、くん…?」


頬に手を添え、じっと彼女の赤い瞳を見つめる。やっぱり綺麗やなぁ。宝石みたい。



「やっと会えたんやから、許したって下さい」



そうして髪に唇を落とした。


…うん。とりあえず、
林檎みたいに真っ赤な日向さん写メって待ち受けにしたい。







(善哉どうでした?)
((うう…味なんて全然覚えてないよ…))
(日向さん、すみませんって。せやけど、あんまりかわええから)
(絶対、謝る気ないでしょう…財前くん)


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