Side 財前



日陰さんとのメールでのやり取りは思いのほか続いた。毎日、たわいもない話でもそれだけで俺の心は満たされる。

一つ年上の日陰さんは口調が丁寧で優しい雰囲気が伝わる。少しずつ少しずつやけど自分のことを話してくれた。
目が片方だけ赤いことを控えめに教えてくれた。コンプレックスで人にどう思われるかが怖い言うとったが、そんなんどうでもええことや。それより俺に話してくれたことが嬉しかった。少し信用してもらえたんとちゃうか?


ますます、好きになってしもたわ。



「えっ…ちょっ、ほんま?」


いつものようにメールで会話をしていた。俺は一通のメールで画面に釘付けとなる。



『実家の掃除も兼ねて、来週、大阪に行くことになりました。どこかオススメの場所などありましたら教えて下さいね』



まじで?日陰さん、来週大阪来る言うてる。確かにそう書いてある。

えっ、ほんまのほんま?
あかん、めっちゃ嬉しいんやけど…。や、直接会うわけやないけど、近くにおるいうことやで?考えただけでテンション上がってまうし。

俺はとりあえずオススメの場所を教え、何時くらいの新幹線に乗るかなど聞いておく。

もしかしたら、もしかしたらやけど会える可能性があるっちゅうことや。

よし、来週駅で待ってよ。


残り一週間。日陰さんのためだけを想って過ごした。面倒な学校もなんなく終えた。



そして、ついにきた。



人混みの中、駅の一角でひたすら待つ。行き交う人の群れをじっと観察するが恐らくそれらしき人はいない。(多分)

ただ改札口をこれでもかというほど見ていると、明らかに日陰さんと違う甲高い耳障りな声が複数聞こえ、近づいてきた。


「あー!!財前くんやなーい?」
「ほんまや!超ラッキーやん!うちら!」
「やだー!私服もかっこええわぁ!」

「(げっ…)」


ジャラジャラギャイギャイ。
こいつらクラスの女子や。しかも俺の最も苦手な奴ら。うわ…最悪。


「ねぇ!何してんの〜?1人?」
「あ?別に関係あらへんやろ」


ベタベタ触ってくる女共。ほんまウザイんやけど。


「クールなとこもかっこええ!」
「ねぇねぇ、今からうちらと遊ばへん?」
「それナイス!」


ナイスやあらへんし。


「ふざけんなや。俺、人待ってるから無理」
「えぇー?ええやん!行こー?」


断っとるのに腕に絡み付き、無理矢理引っ張ってくる。こいつら話聞いとんのか?体引っ付けられても気持ち悪いだけなんやけど。

あー…ほんまどうしよう。ふりのけてダッシュで逃げたろか。つか、この間に日陰さん来てたらお前ら殺すで本気で。


とか何とかイライラしとった時、



「は、離して下さい…」



ほどよい高さ、澄んだ声。
聞き覚えのあるこの声。

声の方を向く。
後ろ姿しか見えへんけど、ふわっと広がる女らしい清楚なワンピースと日焼けしそうにない白い肌が少しだけ見えるカーディガンを羽織り、頭には白い帽子を。


えっ、あれって…?いや、確信はない。せやけど…









「ね?行こーよ」
「い、いえ…ですから私は、」



彼女の細い腕や肩を男達にガッチリ掴まれ、行く手を阻まれている。複数に囲まれる威圧感に怯え、彼女は小さく震え、徐々に涙目となっていく。


「怖がっちゃって可愛いー」


顔を近付けられるとヒッと小さな悲鳴を溢した。グイグイ引っ張られ言うことを聞かない足はどんどん男達のされるがまま、その方向へ進んでいってしまう。


「いやっ…」


人混みの中に紛れ、消えてしまいそうになった時、彼女を掴む手がもう一つ増えた。





「悪いんやけど、俺この人と待ち合わせしてるんで」




手の人物へと顔を向けるものの、逆光のため相手の顔がよく見えない。



「行くで」
「えっ、あっ…はい、!」


スタスタ歩き出す彼に手を引かれ、彼女もまた歩き出した。



「もしかしてあれ彼女?えー…財前く〜ん…」
「ちっ、男持ちかよ」



そんな声など聞こえない。

キラリ光る5色のピアスを後ろから眺めるしかなかった。


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