日差しが少し強くなり、春の温かさが次第に夏のモノへと変化はしていく。自宅の木々からも花が散り、地面に絵を描くかのように広がっていた。
ほうきで花を片しながら、日向は強い日の光を防ぐように手で陰を作る。



「暑いだろ?こっちで休めよ、日向」



日陰のかかる縁側で無駄に長い足を組み、冷えたアイスティーを一口含む人物。優雅なその姿に神社が似合わないなぁと少し苦笑い。隣へ腰を落とす。



「ありがとう、景吾くん」


それを聞き、満足した跡部は飲んでいたアイスティーを差し出し、日向に飲ます。
内心、間接キスよっしゃ。という跡部だが、当の日向には伝わっていないだろう。


「景吾くん、部活終わってお疲れでしょう?毎週来てくれるのは嬉しいんだけど、やっぱり大変だし…あの、えっと…」


矛盾している気持ちに分からなくなる日向はオロオロ焦りだす。


「(やだ、何て我が儘なんだろう。私…)」


しゅんと眉を下げ、キュッと口を紡ぐ。そんな表情の彼女を跡部は愛しげに、彼女の気持ちが分かっているかのように優しいアイスブルーの瞳は日向を見つめるのだ。


「俺は俺の意志で来てる。日向、お前に会いたいんだ。本当は毎日でも会いたいが、週一で我慢してやる」


肩を抱き、チュッとでこにキスをする。
頬を赤く染める日向だが嬉しそうに笑い、控えめに跡部へと飛び付いた。不意な行動、服を握る小さな手、近くに感じる体温に跡部はドキドキと心拍数を上げる。


「景吾くん、いい匂い。私、この香り好き」
「!お、俺も好きだぜ。日向」


香りという部分が全く耳に入っていない跡部は大きな勘違いをしている。幸せな脳だ。


「日向…」


完全に恋人モードに入る跡部は彼女の頬に手を添え、ゆっくり顔を近付けていく。



が、ピローンと携帯の着信音が鳴った。



「あっ、ちょっとごめんね」
「……」


パッと携帯画面に目を向ける。跡部は無言で彼女を抱きながらではあるが、顔を離した。

ちらりと画面を覗くと、跡部の眉がピクッと上がる。


「…男か?」
「わっ…!の、覗かないでよ〜…」


返信を素早く打つと、携帯をしまった。


「それで男なのか?どこのどいつだ?日向の何だ?俺様より格好いいか!?」
「おお落ち着いて〜…!」


肩をグワシッと掴み、ゆさゆさ揺する。跡部は跡部で色々パニックになっていた。


「大阪の一つ年下の男の子だよ。顔は知らないんだけど、曲とか作ったりしてて、すごく優しい人なの」


にこりと笑って言う日向を跡部はじとーっと見る。日向はその視線から逃げようと、話題を探した。


「あっ、景吾くん。来週は来なくて大丈夫だよ。ゆっくり休んでね」
「…あーん?何でだ」


来なくて大丈夫と言う言葉に少しショックを受けている跡部。彼女としては親切のつもりなのだが。


「来週は、大阪に行くの」


跡部は驚いたのかブフォッとアイスティーを少量吹く。


「お、大阪だと!?何で、どうやって行くんだよ!?一人か?一人なのか!?」


もはや過保護レベル。彼女が大切で仕方ない跡部は心配なのだ。


「だ、大丈夫?はい、これで拭いてね。えっと、一人だよ。新幹線に乗って大阪にある神社を掃除しに行くの」


跡部の口元を丁寧に拭いてやると跡部は少し嬉しそうにじっと固まって拭かれていた。


「毎週ありがとう、景吾くん。私、景吾くんが来てくれて、本当に本当に嬉しい」


だから来週はゆっくりしてね、と日向は跡部の口元を拭き終え、はにかみ笑う。

可愛らしい笑顔に跡部はもう何も言わず家で休んでいるしかないじゃないかと思った。



「…ちゃんと連絡しろよ」
「ふふ、うん。連絡するね」



さて、大阪の旅に出ましょうか。




立海の皆にも大阪に行くため説得の時間にかかったとか…


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