動画がアップされて数週間経つとき、驚きの朗報が日向の耳に入る。
「へっ…?今、絢音ちゃん何て…」
教室で(一方的であるが)丸井、仁王と戯れているところ、柴崎が随分と興奮した様子で日向に携帯画面を見せた。
「週間ランキング一位!注目ランキング二位!再生回数もぐんぐん上がってるの!」
ゆさゆさ日向の肩を揺らし、きゃーと声を上げる。
「ちょっとさつきにも伝えてくるわ!」
ピュンと教室を飛び出した柴崎とそれと同時にピュンと入ってきた切原。
「日向先輩っ!今、先輩の友達がめっちゃ叫びながら出てったッスよ!」
「見てたから知ってるし。てか離れろ!」
飛び付いてきた切原はキョトンと可愛らしく首を傾げる。ベリッと剥がされた時の顔も可愛かった。
「つか再生回数とか何の話してんの?」
「え、えっと…」
「何じゃ、ブンちゃん知らんのか」
丸井の問いに言葉を詰まらせていると、おもむろに仁王がポケットをさばくる。それに日向はギクッと焦りを見せた。
「待って仁王くん…!あ、」
仁王がプランとぶら下げる携帯につい手を伸ばすと、ひょいとかわされてしまう。
「ダメじゃー。あげんもん」
彼女をかわす仁王は少し優越感を得ている表情だった。
「おー…何じゃ日向ちゃん。今日はちと大胆じゃな」
「っ…え、?」
手を伸ばしていて気が付かなかったが、二人の距離は息がかかるほど近かった。ぼっと赤くなる彼女が離れようとすると、仁王がそれを許さない。が、またそんな仁王を許さない丸井。
「離せバカヤロォォォ!!」
ぐいっ!と力強く丸井が日向を引っ張る。ぎゅうと彼女を抱き、実は内心パニックになっていた仁王を睨む。
「うぅぅ…助かりました…ありがとう、丸井くん…」
恥ずかしさで色々大変だった日向は無意識に丸井の服をきゅっと握った。そんな彼女にキュキュキューン!とした丸井はパクパク口を開け、「お、おおおう…!」としか言えなかった。
「んで結局何なんスか?つか丸井先輩離れて下さい!」
「う、うるせー!」
ぎゃいぎゃい騒がしい二人に仁王は咳払いを一つ。コホン。
「すまんのぅ日向ちゃん。二人とも、ホレ。コレつけんしゃい」
仁王に渡された黒色のイヤホンを受けとると、丸井と切原は不思議そうに耳にそれをつけた。
仁王が再生ボタンを押すと、二人の景色がぶわっと変わった感覚がした。
流れてくるリズムに耳をじっと傾ける。
「「………」」
言葉が出ない。
流暢に聞こえてくる音に真剣となりながらも何とか必死に喉元から何か言葉を絞り出そうとした。
丁度その時、先ほど出ていった柴崎が吉田を引き連れ戻ってきた。
「大変よ日向!」
「ぐえ…!引っ張んなよ絢音!」
柴崎は吉田の首根っこを掴んでおり、吉田は苦しそうにズルズル引きずられていた。目をキラッキラッさせている柴崎は大ニュースだと騒いでいる。
「日向と話したいってメールがきてるのよ!それもただのファンじゃない!」
「あー!そうそう。何か曲作ってる人だって!」
メールと言ってもサイトのIDでやり取りをするのでプライバシーの問題は心配いらない。
日向と話をしたい人物はパソコンで自分の作った曲をアップしているらしい。
「ねー!ちょっと話してみない?結構有名でイケメンらしいわよ!」
日向が評価されることが嬉しくて仕方がない柴崎は一番興奮している。
しかし、イケメンという言葉に反応したのが三人。
「じゃが知らん奴とメールするんは危ないぜよ」
「そーそー!変な奴かもしんねぇだろぃ?」
「先輩!無視した方がいいッスよー!」
仁王、丸井、切原はブーブーと反対意見を述べる。何とも子供なプリガムレッド。
しかしそんな三人など柴崎にはどうでもいい。(仮にファンクラブの副会長だということは気にしない方向で)
「大丈夫よ!個人情報は知られないし、相手の子は同じくらいの年だし!ね!」
ぎゅうと手を握られ、ぐいっと迫る。吉田でも圧倒される迫力だった柴崎。
「う、うん…じゃあ、少しだけなら…」
嬉しそうな柴崎を見て、断れるはずもない日向はつい了承してしまう。笑顔になってくれる友人が日向は何より大切であった。
「本当に!?じゃあ、早速メールしてね!私もさつきも日向がこんなに評価されて、嬉しいわ!」
「まっ、自慢の日向だよね!」
あー、何で了承したのだろうと後悔もしたが、こんなに笑ってくれる彼女達の顔が見られて、まあいっか、と思ってしまう日向であった。
誰だかきっと皆さん分かってる。