「あ、あのっ…景吾くん…」
「…何だ?」


何分経っただろうか。

跡部は日向を抱き締めたまま離さない。


「あのね…恥ずかしいから、そろそろ離してもらえないかな…?」


周りの(跡部を睨む)目線もあり、離れようと跡部の腕を押してみるが何故か余計に力を入れられる。


「久しぶりにこうして日向に触れられたんだ…もう少しこのままでいさせてくれ、」


引き寄せ、耳元で囁くように言うと彼女はピクリと身体を跳ねさせる。


「柔らかくて、甘い香りがするな、日向は。昔から…それは俺を誘惑する」

「ひっ…!け、景吾くん!どこ触って…っ!」


日向の腹周りや腰を触り、頬や額などあちらこちらに雨のような甘いキスを落とす。そのたび日向から色っぽい声が微かに漏れ出す。真っ赤になり、涙目になる日向が跡部にとって愛らしく、止めることを忘れてその恥ずかしい行為を続けてしまう。





「いつまでそうしているつもりだい?」



救いの声は美しいアルトであったが、その声色は人々を震いだたせるものである。



「そろそろ俺を本気で怒らせたいようだね」


声のトーンに真っ青になる跡部。

勿論それは幸村であり、彼からは黒いオーラが見えた気がして、跡部はそそくさと日向から離れる。(でも手だけは握ったままであった)


「ちょっと、何どさくさに紛れて手握ってんの」
「落ち着け、精市」


横から彼女に抱き着き、ぶすっとする幸村を柳が宥める。



「それよりも今は説明してもらうのが先だ」


柳の言うことに周りは静まりかえる。


跡部と日向の関係も勿論気になるが、跡部が大切だと言う彼女を傷付け、忘れたこと。

そして氷帝のマネージャーについて。


「…姫野愛美は去年の秋頃に転入してきた。忍足が連れてきたことがきっかけでマネージャーになったんだが、俺達は可笑しいくらい夢中になった。まあ、そうじゃない奴もいたが、とにかく惚れ薬でも飲まされたみたいにアイツを愛した」


姫野をマネージャーにしたその日から一部を除くレギュラーは彼女に構うようになり、やがて練習量も減った。


「じゃが、氷帝は練習せんほど女に夢中になる奴らやなかったじゃろ?」
「確かに…我々と同じくらいテニスに注ぐ熱は並々ならぬものであったはずです」


日向の髪を指に絡めながら言う仁王に説得力の欠片もないが、その通りであるのは確かだ。柳生は仁王の手をピシリと叩き、意見に同意。


「それは…分からねぇ。今考えると俺だってそう思うが、きっと姫野の言いなりだったんだろうな。…情けねぇ、」


跡部の顔は後悔そのものだ。テニスを疎かにしていた自分が許せず、弱くなったであろう自分が醜いと感じていた。


「でもよー、日向忘れんのは分かんねぇ」
「そうッスよ!大切だったら何で先輩泣かせたりしたんスか!」
「止めろよ、ブン太、赤也。言い過ぎだぞ」


ジャッカルが二人を落ち着かせるも、丸井や切原は止まらない。彼女のことを想って言っているのだろう。


「記憶がすり変わったみてぇだった。日向の記憶が姫野に変わってた。今更、言い訳でみっともねぇ話だが、俺は日向、お前を忘れたことなどない。ただ一度も…本当にすまない、」



再び頭を下げる跡部に日向は慌ててそれを止める。


「景吾くん、本当にいいから。ね?もう謝らないで。また謝ったら、それこそ怒っちゃうからね、私」


ぷくりと頬を膨らませる彼女は小動物のようで、非常に愛らしい。


「本当に、日向には敵わねぇな。俺様も」


膨れた頬をつんとつつくと空気が宙を舞い、シュウッと抜ける。それが恥ずかしかったのか赤くなる彼女のほっぺたに跡部は手を添え、唇を落とした。


「!?け、景吾くん!ここは外国じゃないんだからダメだって…!」


外国だったらいいのかと思わせる発言だが、跡部はお構いなしといった様子。



が、



「はーい。日向を返してねー」



パワーS級の力で跡部から日向を奪い取るのは幸村。笑顔が笑顔ではなかったことは、見間違いであってほしい。



「…なるほど。流石、日向だな。立海全員を手懐けやがったとは」

幸「(何でこいつこんなに偉そうなんだろう)」

真「(いつもの調子に戻ったな)」

因みに真田はここまで話についていけていなかった。



普段の調子に戻った跡部に安心した反面、イラッとしたことは言うまでもなかろう。





(つ、つか二人ってどういう関係ッスか?)
(祖父同士での付き合いでな。小学生からの仲で婚約者だ!)
(えええええ!?)
(えええええ!?)←日向
(ふ、ふざけんじゃねえよ!嘘だろぃ!?)
(俺の日向ちゃんが…俺の日向ちゃんが…!)


(全員、五感奪ってもいいかな)

(気持ちは分からんでもないぞ、精市)


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