ベッタリとフェンスに張り付いて熱い眼差しでテニス部の練習を見つめる女達。応援の声はキーキーと甲高く、ハッキリ言うとめっちゃ耳障り。

イライラし過ぎて上手くラリーが続かない。


…いや、違う。



「(肩が、重い…)」


異様なまでに肩が重い。ズシッと鉛でも乗せているかのように肩が動かない。



「おい赤也ー、今日ちょっと調子悪いんじゃね?」


丸井先輩はいつものようにガムをクチャクチャ食いながらながら、俺の方へと来た。


「…いや、全然大丈夫ッス!偶々ッスよ!偶々!」
「でも肩重そうだぜ?本当に大丈夫なのか?」


ジャッカル先輩は心配そうにタオルを渡してくれた。マジで優しいと思う。


「大丈夫ッスよー!ちょっと失敗しただけッス!」
「何がちょっとだよ〜!結構ミスしてただろぃ?」
「はぁ!?してません!丸井先輩だって、さっきお菓子食ってて真田副部長に怒られてたくせに!」
「な、!てめぇ見てやがったのかよ!」


丸井先輩がプロレス技をふっかけてくる。この人はマジでいてぇ!ジャッカル先輩はそれを止めてくれるのがいつもの役目。


「マジ勘弁ッス!」


笑いながらそう言うが、俺は今こうしてないと気がどっかになくなってしまいそうだった。だからワザと怒らせたり、ゲラゲラ大袈裟に笑ったりしている。


「あ、部室行きましょっか!」
「よっしゃ!俺喉乾いたぁ!ドリンクドリンク〜!」


五月蝿い女達が名前を呼ぶが、そんなもん無視して部室に向かう。



部室の扉を開けた


その時


「…っ!」



ぐらりと身体は傾いて、その瞬間、肩に黒い何かが見えた気がした。



「赤也!!」



丸井先輩とジャッカル先輩の声がしたが、俺は肩から聞こえる声だけがハッキリ耳に届く。





"…やっと、私のものになる"













「…!」


ガタッと日向は椅子から立ち上がった。何かを感じたかのように真っ青に顔を染め上げる。


「(今…間違いなく感じた。でも、どこから…!)」


場所が分かった瞬間、日向は教室から飛び出して、取り乱したように走り出た。


「(どうして、私、気が付かなかったの…!)」


日向の身体から想像出来ないほどの速さで走る彼女の目指す先は、



「…テニス部!」



階段を駆け下り、テニス部部室を目指した。周りの目線なんて気にならないくらい、日向は必死だった。



その時、廊下の先に見覚えのある、藍色のウェーブが目に映る。



「っ、幸村くん!!」



日向が珍しく声を荒げるもので、幸村は驚いたように此方へと振り向いた。



「日向?どうしたんだい、そんなに急いで…」
「お願い、!私の、鞄から水、入った瓶を持ってきて…!」
「は?何、俺のことパシリにする気なの?急にどうし…」
「お願い!」



あまりに急いでいた彼女は鞄を持ってくるのを忘れていた。鞄には大切な物が入っている。幸村の言葉を遮ってまで、日向は必死なのだ。苦しそうに顔を歪める彼女に流石の幸村も少々だんまりする。


「テニス部の…切原くん、危ない、の…」
「……ったく。日向の頼み事じゃなかったら呪ってる所だよ」


ペシッと日向の頭を軽く叩くと、先ほど彼女が来た方向へ走っていった。









「通れ、ない…」


テニス部のコートにはびっしり女子が埋め尽くされていた。部室へ行くには必ずそこを通らなければならない。何度か通ろうとチャレンジしてみるものの、女子達の壁は厚い。前へ出ようとすれば、容赦なく睨み付けられる。


「(急がなきゃ切原くんが…どうしたら…)」


「日向?」


途方に暮れ、女子の群から離れた場所にいると、彼女を呼ぶ声が。振り向くと、柳がいたのだ。ノートを片手に此方をじっと見る。彼女はつくづく運が良い。幸村に続き、柳に会った。これは出来過ぎるくらい運が良い。



「部室へ、部室へ連れて行って!切原君が、大変!」


「お願い」と涙ながらに言う日向に柳連二は全てを理解する。


「こっちだ」


日向の小さな手を柳の大きな手がぎゅっと捕まえる。少し驚いている彼女に構うことなく、柳は部室へ見つからず行くことが出来るルートへ引き連れて行った。



部室が迫るに連れ、日向は段々と険しい表情となる。




「切原くん…」


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