彼女はコツコツと靴を鳴らし、やがて"立海大附属"と書かれた大きな門を潜る。
彼女の通う学校はデカい。東京にある"氷帝学園"には劣るが、それでもかなり大きい。
校舎までの道のりを進んでいると、テニスコートからか。女子達の黄色い歓声が耳をぐるぐる駆け巡るよう流れてきた。
立海大附属テニス部は非常に女子からの人気が高い。全国区という理由もあるが、何より容姿がいい。ファンクラブまで存在するほどなのだ。
「(すごいなぁ)」
それを傍観しながら彼女が校舎に入ることは日常茶飯事。
胸辺りの長さの髪をゆらりと揺らし、彼女はまた靴を鳴らした。
ガラリ。
教室の扉を開ける。
彼女のクラスからは運がいいのか悪いのか、テニスコートが見える。毎日女子達は窓からそれを熱い眼差しで見つめるのであった。
しかし彼女が入ってきたことに気が付いた、歓声を送る一部の女子は窓からぱっと離れ、眼帯を触る彼女に近付く。
「おはよっ!日向」
「日向、おはよー」
「おはよう、2人とも」
挨拶を交わした2人の女子は彼女、日向の友人だ。先ほどまでテニスコートに向かって声援を送っていた2人は今は見向きもせず、彼女に話しかけている。
「それにしてもテニス部すごいな〜」
「そりゃあ人気者ですものね」
「格好いいからね、ぶっちゃけ」
「まぁねー」
日向の目の前で繰り広げられるテニス部の会話。これを聞いているのも日常茶飯事なのだが。
「でも今テニス部さぁ、色々とヤバいらしいよ」
「あぁ、怪我人続出とか欠席数増加とかってやつでしょう」
「流石副会長!情報早いね」
「あんたもでしょ、会長さん」
会長、副会長という単語がちらりと飛んできた。驚くことに日向の友人はテニス部ファンクラブの会長、副会長である。
だからこそ周りの皆はがっちり権力者の2人がテニス部の練習を見ず、日向に構う理由がよく分からないらしいが。
「今、色々と大変なんだね」
「あ、ごめん!日向、完全に蚊帳の外だったよね!えっと、今大変なんだよ!」
「練習するたび怪我人続出よ。欠席する人も増えてて何か呪われてるみたいって噂がね」
「…そうなんだ」
悲しそうに顔を歪ませる友人2人に日向は心がぎゅっと苦しくなった。
「まぁ、呪われてるなんてたまったもんじゃないけどね」
「ただの偶然かもしんないしねー!あ、チャイム鳴る!じゃあ席戻るねー」
チャイム音と同時に2人はパタパタ席へと戻って行った。その後ろ姿をただじっと見つめる日向はふっと目を閉じる。
「呪われてる、かぁ…」
ポツリ、呟くと窓の外から風がぶわり吹いた。