いつもの学校、いつもの放課後。
日向は何一つ変わらない日常を過ごしていた。


笑顔も増え、友人やテニス部のメンバーも少し安心。


現在、放課後で日向は帰る身支度をしている最中だ。教師に頼まれた仕事をしていたら、すっかり部活が行われている時間となっていて、教室には日向しか残っていない。友人二人には手伝うと言われたが、大丈夫と一言。迷惑はかけたくないらしい。(向こうは迷惑など微塵も感じていないが)



「帰ろっかな、」


荷物を詰め終えた日向は鞄を肩に掲げ、教室を出ようと一歩を踏み出した時だった。




ガラリと勢い良く扉が開かれる。


突然のことで驚き、ビクッと体を震わせ目を向けた。





「柳くん、柳生くん…?」



テニス部の中でも冷静で大人な二人がそこにはいた。珍しい組み合わせで日向は不思議に思う。



「ふむ、教室にいる確率は49%だったが…」
「何はともあれ、見つかって良かったです」


乱れている息を見るからして、少し急いでいるようだった。


「あの…」


不思議そうに見つめる彼女に気付いて、二人は口を開く。



「急にすまない。少し問題が起こったんだ」
「問題…?一体何が、」
「跡部くんが、テニスコートに…」



名前を聞くと胸がざわざわとざわめき始めた。落ち着いてきた彼女の心臓が再び音を鳴らし出す。



「お前に会いたいと申し出ている。精市が話しているが、恐らく拒否しているだろう」
「どうも良い雰囲気ではありませんし、仁王くん達もピリピリしています」



跡部と日向に関して、幸村は冷静さを少し無くしていた。勿論、真田やジャッカル以外の他のメンバーもそうだ。会いたいと言う跡部の言うことを一体誰が聞くだろうか。傷付けた本人を易々と会わせるはずがない。また傷付けられてしまうかもしれないからだ。



「だが、俺は会うべきだと考えた。精市の気持ちも一理あるが、跡部ときちんと話すのが一番良いと思う」
「私も会わせるべきではない気持ちはありますが、貴方にとっては会った方が良いかと」



唯一、冷静さを保っていた二人は日向を探しに来た。会わせるべきだと判断し、こっそりとだ。



「行け、日向」
「日向さん、頑張って下さい」



優しく笑う二人を見て、日向の足は自然と動いていた。




「ありがとうございます…!」



ついつい敬語になりながら、目指すはテニスコート。















「一体どういうつもりだい?」


腕を組ながら、幸村は相手をじとりと睨み付ける。


「自分が何をしたか分かってるの?跡部」


幸村の前に立つのは氷帝学園の制服。
跡部は唇を噛み、悔しそうに、苦しそうに美しい顔を歪めていた。


「…分かってる。だが頼む。会わせてくれ、」


幸村を含め、他のメンバーも厳しく跡部を見つめていた。



「また、傷付けるの?」

「俺は、」

「泣かせるの?」

「っ…」

「そんなの許さない」



拳を強く握る幸村は本当に彼女を大切に思っているからこその行動だ。

仁王の目は鋭く、明るい丸井はなく、切原の目は充血しかけている。
皆、同じように日向を大切に思っているから、だからこそ跡部を許せなかった。




「頼む、」



しかし、跡部の態度を見て、目を見開く。


頭をゆっくりゆっくり下げた。
跡部が頭を下げている。あのプライドの高い、王様を名乗る跡部が頭を下げている。

それだけで驚いた。



「この通りだ…日向に、会わせてくれ、」



膝まで下ろし、地面に頭を擦り付けるように土下座でもしているかのような体制。

プライドなど捨て、彼女に会いたい。それで会えるならそれでもいい。それが彼の想いだった。



「…跡部、何してるんだい」

「確かに傷付けた。泣かせた。だが、俺は伝えないといけないことがある。そのためならプライドなんかいらねぇ、」



その姿は王に願いをこう平民のようなみすぼらしい姿。
普段からは想像出来ない姿だ。



「頼む、頼む、頼む…」



幸村は苦渋の表情で跡部を見下ろす。

幸村もどうしたら良いかなど分からない。跡部のその姿を見つめるしか出来なかった。







「幸村くん!」





息を切らし、涙を溜めながら走って来るのはやはり日向。



幸村は諦めたように一息吐いた。


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