練習試合は行われていた。
「やあ、跡部。今日は色々宜しくね」
「フンッ、王者と試合とは楽しみだぜ」
にこりと幸村は笑うと跡部は鼻を鳴らした。(後ろで立海メンバーは跡部に御愁傷様と唱えていた)
「あのぉ、あたしマネージャーの姫野愛美って言います!部長さんですかぁ?超カッコいいですね!」
「…ありがとう(何コイツ死ね)」
だだ漏れの心の声も残念ながら姫野には届くまい。姫野は立海全員に自己紹介を始め、彼らのことを馴れ馴れしく名前で呼び出すという終いに。
「愛美は氷帝のマネージャーやろ?立海ばっか相手しとったら妬いてまうわぁ」
「ええ、愛美は今日は両方のマネージャーだもん!だから喧嘩しないでよぉ!」
「激しくいらないから安心してよクソ丸眼鏡」
幸村の笑顔がそろそろ黒くなり始めたことに恐ろしく思った立海メンバーは試合を直ちに始めることにした。因みに姫野は皆照れてると勘違いしている。
第一試合、
日吉vs切原
二人とも中々良い試合を繰り広げていたが、体力が尽き、引き分けと幕を閉じた。
第二試合、
向日・芥川ペアvs仁王・柳生ペア
芥川のボレーがよく活躍していたが、向日の体力が無くなり、仁王と柳生のペテンにかかったため向日・芥川敗北。
第三試合、
宍戸・鳳ペアvs丸井・桑原ペア
白熱した試合だった。
しかし宍戸は鳳のサーブの威力に少し衰えが見えたような気がした。その間ジャッカルの鉄壁のガードと丸井の妙技が炸裂し、丸井・桑原の勝利。
立海のリードで残り三試合。
途中休憩を挟んでいる時、幸村の携帯電話が鞄の中でぶるぶると揺れた。
いつもなら試合を全て終えてから確認するが、ディスプレイに表示されている名前を見て、早急に携帯電話を開く。真田は規則を守る幸村が珍しい行動をしたもので、注意が出来なかった。
「…全く。どこまで予想外なんだか、」
おもむろに立ち上がると、氷帝のベンチまで幸村は歩く。
腕を組み、ピタリと跡部の前で止まった。
「跡部、試合を一つ減らしてもらえないかい?」
「は?」
幸村の言葉に跡部は間の抜けた声を出す。
「えっ?どうしてぇ?あっ!交流会とかしたいの?愛美との!」
「ちょっと時間がなくなったんだ」
姫野の言葉を流す幸村を見て、姫野はピクリと眉を歪めた。
対し跡部は少し考えた後、パチンと指を鳴らし、幸村にこう告げる。
「いいだろう。樺地、今日の試合、無しでもいいか?」
「ウス」
樺地も了承をしてくれたので、一つ試合が減ることに。
「悪いね、樺地くん」
「自分は…構いません」
そして立海では
「ふむ、俺と弦一郎が」
「何故だ幸村!俺達は試合せず、お前が二人相手にするとはどういうことだ!」
幸村の話はこうだ。
一つ試合を減らしたことで、試合はあと二つとなる。本来なら真田と幸村のはずだったが、幸村は1人で二つ試合をすると言うのだ。
「それは無茶ではないか!いくら私情があるとは言え、勝負は勝負…!」
真田の言葉は幸村の瞳を見て止まった。
「勝つよ」
それは強い、試合の時に見せる強い顔だった。コートに向かう後ろ姿は頼りになる、部長の背中。
「確かに、私情を挟んでる。勝負なのに私情を挟むなんて情けないけど、勝負は勝負。分かってる。俺は勝つよ。それが掟、だろ?」
最後、笑った顔は少し悪戯っぽい少年の顔だ。
立海の皆は顔を揃えて笑った。
「…必ず勝ってこい。お前ならすぐに終わってしまうだろうがな」
ふいっとそっぽ向く真田に幸村含め、一同が笑う。氷帝と違って、立海は笑顔が多い。
「じゃあ行ってくるね」
(日向を泣かせたこと、後悔させたあげる)