「日向…」
幸村が振り払われた手のひらをじっと見つめる。
彼女を思うと部活だって身に入らない。泣いてしまいそうな彼女の顔が頭を占領するのだ。
「…精市、」
「…嗚呼、柳。と真田も」
肩に羽織っているジャージを靡かせ、声の方を振り向くと、柳が立っていた。その裏には真田も。
「今日は様子が可笑しい。何かあったのか?弦一郎も心配していたぞ」
「なっ…!断じて違うぞ!だた幸村の様子がいつもと違ったので気になっただけで、」
幸村は珍しいな、とポツリ呟いき、真田の慌てぶりに少しだけ笑った。
「柳なら、分かってるんじゃない?」
「…大方、日向だろう」
流石と幸村は一言。
「何かあったのか?そういえば、柳生や赤也も変だと言っておったが…」
少なからず、テニス部のメンバーは気付いているようだ。
幸村の元に真田と柳がいるもので、いつの間にかレギュラー皆がわらわらと集まり出す。
話題は勿論、日向。
「確かに、今日は様子が可笑しかったですね。何と言いますか…」
「悲しそうだったッス!あと、何か辛そう!」
「それですね」
柳生は指差す切原に注意をしながら、その言葉に頷く。
「そういえば元気なかったぜ。授業中も上の空って感じだったしよ。ジャッカルは何か知ってんのか?」
「いや。俺は特に聞いてねぇけど」
丸井はガムをパチンと割り、ジャッカルへと向くが、ジャッカルも首を横に振る。
幸村や皆、雰囲気が何処と無く暗かった。
しかし、幸村は一言も喋っていない一人に視線を向ける。
「…何か知ってるよね
仁王」
仁王は言葉を詰まらせた。
「お、俺は…」
彼女と約束をした。
「…仁王」
したけれども、
彼女の覚悟と同じくらい、テニス部のメンバーは彼女自身を心配している。
「…日向ちゃんには言わんでくれと頼まれたんじゃが、」
ゆっくりゆっくりと仁王は話を始めた。
氷帝のこと。
そこで何があったか。
一人、変な女がいたこと。
跡部のこと。
「日向ちゃん、泣いとったよ。隠れて、気付かれんように、ずっと泣いとった」
仁王は拳を強く握り締める。
皆は悲しげに黙っていた。
「言葉とか暴力とかよりも、跡部の言葉が一番キツかったみたいじゃ。跡部は、日向ちゃんを…」
唇をぐっと噛み、赤い血が唇を伝って流れそうだった。
黙って聞いていた皆だが、やがて幸村が口を開く。
「…やれやれ。俺だけで充分なのに、我ら王者立海は同じ子を大切に思ってしまったらしい」
ふふ、と幸村は笑い、ゆらゆらジャージを揺らしながら、歩き出す。
「幸村部長?何するんスか?」
「決まってるじゃないか」
(氷帝と練習試合をする。)
幸村の考えに、テニス部のレギュラー皆、笑って頷いた。
それは彼女には分からない。