「これは買ったし、これも買ったし…うん。全部ある」



とある放課後。

此方、東京。


和風な布生地がいくつか入った袋をぶら下げている日向。



「やっぱりここのお店の布が一番素敵だなぁ…」



日向は嬉しそうに袋を掲げ、美しい模様が散りばめられた布をうっとり見つめる。

彼女が神奈川からわざわざ東京までやって来た理由は布探しだ。この布は彼女の自宅でもある神社で販売をしている御守りのための布である。昔から東京の店で購入していたため、遥々やって来たという訳で。



ところで日向は今、立海の制服を着ている。
有名な立海の制服だからか、はたまた東京では見たことのない制服だからかは分からないが視線が嫌に刺さる。


それが痛く、日向は薄汚れているコンクリートに視線を落とし、そそくさ帰り道へと急いだ。


行き交う人の靴とコンクリートしか見えなかった風景に一つ、薔薇が一輪咲いたハンカチが目に入る。
今、数メートル先にある光景があまりにアンバランスで思わず目を奪われる。

人々は気付いていないのだろうか。


日向はふとそんなことを考える。

否、気付いているだろうが誰も拾わないのが現実だ。


日向はハンカチの方へと向かう。何度もぶつかって、何度も謝った。何とか辿り着き、ハンカチを片手で拾い上げると、ふわっと薔薇の香りがした。


「誰のだろう…?」


キョロキョロ。
周りにそれらしき人物を探してみる。

しかし、薔薇のハンカチが似合いそうな人など分かるはずもない。
交番に届けるかと考えた時、日向はピンときた。



「(あの人だ…!)」



高そうなスーツを着た、如何にも!な感じの男性だ。年は中年くらいだと思う。



「あああの…!」



日向の声で男性はピタリと静止。そして、くるりと振り向いた。

日向は息を飲む。

男性は高級感漂う気品が溢れており、年齢は上なはずだが格好よく見えるのは気のせいかと思うほど。



「何か用かね」
「あ、あの!こ、このハンカチ、貴方のかと思いまして…!」




緊張で声が裏返ってしまう日向は恐る恐るハンカチを差し出す。男性はハンカチをじっと見つめると、目を見開いて、やがてにこりと笑う。



「ありがとう。これは私が大切にしていたハンカチなんだ」
「い、いえ。大切なハンカチなんですね」



良かったです、と日向もホッとしたように笑った。


和やかな雰囲気だったが、何となく気まずくなった日向は頭を下げて、その場を去ろうとした。



が、腕をガシリと掴まれる。


「あの…?」
「私は氷帝学園で音楽の教師をしている榊だ。お嬢さんには是非ともお礼がしたい」
「お、お礼なんてとんでもない!私はハンカチを拾っただけですし…」


驚いたようにひくりと口元を上げ、日向は掴まれる腕を解こうとする。



「それでは私の気が収まらない。それは部活の部員からのプレゼントでな」



日向はもごもご口で何か言ってはいたが、結局はしつこい榊に負け、お礼というものを了承した。



「では車へ」
「は、はい…」



榊が怪しい者に見えたのは気のせいだろうか。ロリコンと言うか。どこか危ない。

いや、まあ大丈夫だが。



高級な車は日向を乗せ、ある場所へ向かった。









氷帝学園



そう書かれている門を潜る。

日向は音楽室に案内され、ついでに紅茶とお菓子も頂いた。


「それと、これを」
「わぁ…綺麗な布」


高級な絹を使ったであろう布を沢山手渡される。


「君は布を袋に入れていたからな。それでここに置いてあるのを思い出したんだ」
「いいんですか…?」
「貰ってくれ」


少し躊躇ったが、日向は嬉しそうにはにかみ、ありがとうございますと言った。


「ところで、その布は何に使うのかね」
「あっ、その…私の家は神社をやっておりまして、御守りを、作るための布です」
「ほう、神社」


陰野と言う神社だと告げると、榊は今度行くと言う。



「さて、私は仕事が残っているから行くが、良かったら氷帝学園を見て回るといい。色々ある」
「はい。色々とありがとうございました」
「うむ、行ってよし」



最後の台詞はよく分からなかったが、榊が出ていくのを見ると、彼女も部屋を出ていった。




「(ちょっと見て回ろうかな)」





広い広い氷帝学園。



さあ、散策しなければ。


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