私は仁王くんに嘘を吐いてしまった。




「後で、行く…か」



無理だと分かっていたのに口が勝手にそれを言葉にする。助ける必要はどこにもない。放っておいてしまえば良かったのかもしれない。だって私は嫌われている。わざわざ助けるなんてとても可笑しな話。

…でも、彼を必要とする人達が沢山いる。私は彼や彼の仲間のためにも助けたいと思ってしまった。

境界は犠牲を伴う危険な場所。


もし、仁王君があと少しでも長く此処にいたら消滅してしまうだろう。

私は多少力はある。
数日は保つだろうけど、流石に一週間はキツイなぁ…。どんどん身体に自由が無くなっていく。



「あっ、」



ほら。身体が壁に吸い込まれていく。中に取り込まれてしまうのかな。何となく抵抗してみた。最後の悪足掻きって言うのかな。力を込め、壁と空間に攻撃を喰らわす。

すると、吸い込む力は徐々に衰えをみせた。



だが、


『お前は、あちらで必要な存在?』


悪魔の囁きが聞こえる。

私が一番嫌いな言葉で問い掛けてくるのだ。



「私、は…要らない、」



そうだよ。私は要らない存在。ずっとずっと言われてきたじゃない。



『お前がいなくなったらどうなる?』

「誰も、悲しまない…私が、いなくても、泣いて、心配してくれる、家族は、もう、いない…」



家族。
私が何より欲しかった存在。私にはお爺ちゃんしかいなかったから。


私は消える。

そう思った。






でもね、

貴方の声、聞こえたよ。


温かい雫が私の手のひらを伝うの。





「に、お、くん、?」





銀髪の、私に大嫌いと言い放った彼が目の前にいた。




私、生きててもいいの?
















「ゴホッ!ゴホッ!…あ、れ…私…」



日向はゆっくり目を覚ました。苦しそうに咳き込み、光に目を眩ませる。


「出られた…?私、」
「うぅ…!」
「え、あっ…!」


日向は声がする方に目を向ける。自分の下には仁王がいた。しかも下敷きになって。


「に、仁王くん!ごめんなさいっ、私っ…」


急いで上から退こうとしたが、それは仁王によって阻止される。ぎゅっと彼女を抱き締める仁王の手は弱々しく震えていた。



「…仁王、くん?」
「…すまん、」
「えっ…?」



驚くほど小さな声。
小刻みに震えている仁王の身体に日向は為すすべもなく、ただじっと動かないでいるしかなかった。


「俺は、勘違いしとった。テニス部の奴等に近付くお前さんがムカつくと思っとったが、それは逆じゃった、」
「逆、ですか…?」
「お前さんと話しとるあいつらにイライラしとったんじゃ。俺だけ仲間外れみたいで…」



ピリピリして、鋭い仁王は何処にもいない。今は何だかやんわりとした雰囲気をはしていた。




「つ、つまりじゃな…俺はお前さんと話がしたかったんじゃ。他の奴等みたいに、仲良うしたかった」



ぎゅうと抱き付いている仁王は耳が生えた猫のようで少し可愛らしく見える。




「本当に、すまんかった。えっと、俺と、仲良うしてくれるか?」




日向にしっかり目を合わせ、赤い瞳を不安そうに見つめる。




「はい、勿論です」




ふわり、温かい日だまりのような笑顔が仁王を優しく迎えてくれる。



仁王も嬉しそうに、ぱあっと笑っていた。






(そういえば、資料室で柳生と話とったことって…大切とかなんとか、)
(柳生くんは確かに重そうな荷物持っている人は放っておけないって…それがどうしましたか?)
(……また勘違い)


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