次の日も、また次の日も何も変わらない時間を過ごしていた。授業を受けて、たまにサボって(柳生に見つかったがのぅ)、部活して、みんなで帰って。


俺が境界とやらから出てきた後からは何もない普通の日々が続いた。


暫くは俺は何とも思わんかったが、あれから一週間経った頃、気付いてしまった。





隣が、空席だ。



後で、と言ったあいつの存在を今まで忘れとった。何故いない?どうでもいいはずじゃが、何で気になるんじゃ。



「…日向、どうしちまったんだろうなぁ。何で学校来ねーんだよ…柴崎は何か知らねぇの?」
「…知らないわ。私が聞きたいくらいよ。本当に、どうしたのかしら、日向…」


ブンちゃんや柴崎と言うあいつの友人がそんな会話をしていた。ファンクラブの副会長なのに俺等よりあいつが大切らしい。二人共、悲しそうな顔。



何でじゃ?
あいつは俺を出した後、自分も出たんじゃないんか?

一体、どうなっとる。



俺は不安に駆られ、屋上に向かった。









屋上は爽やかな風が吹いている。

明るい光が射していて、あの暗闇なんか嘘みたいじゃった。



「いない、か」


当たり前にあいつはいない。
いるわけないか。じゃが、一体何処に行ったんじゃ。




「仁王?」
「っ!…幸村…」



風に流れて幸村の声が俺の耳に響く。どうやら屋上庭園の世話をしているようじゃった。


「そんなに慌ててどうしたんだい?」
「い、や…」


ジョウロを持った幸村に安心する一方で不安にもなる。あいつのことがあるから、幸村が一番怖い。





「…日向なら帰って来ていないよ。家にもね」
「な、!」



幸村は気付いとる?俺が何で屋上に来たのか、何で慌ててるのか。きっと俺が何処にいたかも知っとるじゃろうな。




「仁王、日向に助けられたんじゃないかい?」
「っ」
「どうせいっぱい酷いこと言ったんでしょ。大嫌いとか」



見透かされたみたいに全部当ててくる。幸村には何もかもお見通しってわけなんか。


「日向はいくら酷いこと言われても何も言わないよ。泣きもせず、じっと話を聞いている。違うか?」
「…違わん」


幸村は何が言いたい。分からん。俺には分からんよ。



「慣れてるって。言われることに慣れてるし、自分はその程度の人間って思ってるんだ」


そういえば、俺が罵声を浴びせても、文句なく聞いてた。



「日向の家の子に聞いたけど、境界って所に聞き覚えは?」
「…俺はそこにいた。あいつが境界って言ってたんじゃ」
「…やっぱり。全く、本当に馬鹿な奴」


溜め息を吐き、幸村は凄く深刻そうな顔をする。

一体、あいつは何を?



「よく聞くんだ仁王」



キッと幸村は俺を見る。これは試合でよく見る顔。幸村の本気の顔じゃ。




「境界に取り込まれた人を助けるには犠牲を伴う。つまり、仁王の代わりに日向は犠牲なったんだよ」
「…犠、牲」
「初めから日向はあそこに残るつもりだったんだよ」



犠牲?どういうことじゃ。何であいつは俺のために残る。意味が分からん。俺はあいつに助けられる義理はないはずじゃ。



「日向は自分は必要ないと思ったんだ。あいつは昔からそうだ。自分より他人。俺がこんなに必要としてるのに、本当馬鹿」



あいつは最後言っていた。自分は俺等の中に入れない、自分にはいない。何がいないかは分からんが、確実に聞こえた。



「俺が助けに行きたいけど、お前が行かないと意味がない。仁王、これは日向のためだ。日向はあげないよ」
「俺が、」
「助ける方法は聞いた。お雪ちゃんって女の子が一瞬だけ境界とここを繋ぐ。その瞬間、日向を引っ張れ」


俺がやるんか?と幸村をチラリ見るが、幸村は強い目で俺を見ていた。


「仁王がやるんだ。必ず日向を助けろ。じゃないと許さないから」




俺は、助けられるんか?

大嫌いと言ってしまったあいつに今更何て言えば。





放課後、動く。


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