休日。
日向はいつものように自宅である神社を掃除をしていた。
「(それにしても、)」
違和感。
最近の彼女にはそんな感覚があった。
何か可笑しい。
「(変な感じがするというか、嫌な予感がするというか…)」
掃除の手をピタリと止め、日向はその違和感とやらについて考え始める。
頭の中はモヤモヤと言い表せないほどの感情を巡らせ、悩み、唸る。知っている。だけど何か出てこない。その気持ち悪い感覚が彼女を妙に悩ませる。
「何か、開いた…?そんな感じ感じがする。けど、一体何が、」
ぶつぶつ独り言を口走る日向はどこか焦っているように見えた。
プルルル…
「…電話?」
ディスプレイには
『幸村精市』の文字が。
通話ボタン押し、電話に出る。
「もしもし、」
『あ、日向!俺、幸村だけど!』
幸村は酷く取り乱したようであった。声に混乱を感じる。
「幸村くん、どうしたの?何かあったの…?」
いつもと違う幸村に日向は心配そうに疑問を尋ねた。
『仁王が、いないんだ』
「えっ、?」
ドクンと心臓が音を響かせる。
『一昨日から学校にも部活にも来ていないんだ。風邪かと思ったんだけど連絡が取れなくてね…家にもいないって、』
仁王は幸村の言う通り一昨日から学校に来ていない。最初は皆ただの風邪かと思っていたが、仁王は連絡も無く部活を休む人間ではない。気になり連絡をしてみるも、繋がらなかった。クラスメートである丸井がプリント類を家まで持って行ってみらるも、いなかった。家族は必死に探しているとのこと。
そして今、テニス部一同で探し回っている。
『ごめんよ。日向ならもしかしたらって思って…』
「…」
『日向?』
急に黙りこむ日向。その沈黙に幸村は不思議そうに彼女の名前を呼ぶ。
「違和感、扉、開く…」
『日向、何て?』
「ごめんなさい!幸村くん、私っ…!」
『えっ?ちょっと、日向!どうし』
プツリ
電話を切った日向はほうきを放り投げ、走り出した。自分が巫女の服装だということも忘れるほど、彼女は急いでいる。周りからの目など気にする余裕はない。
目指したのは、学校。
場は変わり、ここは屋上。
日向は息を切らし、そこに立っていた。
「お願い、開いて」
青い空の下、何もないその空間に両手を前へと翳す。
大きくスゥッと息を吸うと、ふわふわ風が吹き始め、彼女の着ている服もヒラヒラと靡いていた。
ぐにゃり。
空間が曲がり、蜃気楼のように辺りはゆらりゆらり揺れる。
日向の伸びた手は、まるで別の空間へと入り込んだように吸い込まれて消えていく。
「仁王くん。今から、君の所へ向かいます」
スポン、と日向の身体は跡形もなく別世界の扉へと消え去った。