3年になってから約一週間が経った。



日向はというと、いつもと変わらず平凡に過ごしている。




…いや、平凡とは言わない。


何故ならば、





「日向、困ったことがあったら何でも相談するんだよ?同じクラスだからって調子に乗っている豚についてとか」
「先輩!!俺のクラスにも遊びに来て下さい!てか俺が行きます!毎日!!」



このようなテンションで幸村、切原が毎日毎日会いに来る。しかも柴崎や吉田が会議でいない時を狙ってかは分からないが、常にそのタイミングに来る。
柳や柳生もたまに遣っては来るが、ここまでではない。



「しょうがなねぇだろぃ?なっちまったもんはなっちまったもんな!日向!」


丸井はと言うと、日向の肩をガシッと抱き、少し得意気にプクリ、ガムを膨らませた。



「ふふ、丸焼きにするよ」
「ごめんなさい」


幸村の恐ろしく美しかったので、丸井はカタカタ体を震わせ、日向を離す。



こんな毎日が当たり前になりつつあるが、日向は一つ気が付いたことがある。



隣の席には銀が眩しい仁王雅治が此方をただじっと眺めていた。彼はいつもこうだ。テニス部の仲間とは普通に会話する。やんわりとした優しい目で楽しそうに話しているのだが、日向とテニス部が話している時は違う。中に入ってこようとせず、ただじっと睨むのだ。

鋭い目は忽ち日向を恐怖へと陥れる。

日向は少なからずとも仁王のことが苦手だった。近寄りがたい雰囲気もあるが、自分が嫌われていると分かっているからこそ、余計に意識してしまう。



「先輩?どうかしましたか?」
「う、ううん!何でもないよ。ごめんなさい」


切原の呼び掛けにハッとなり、平静を装うため、日向はぎこちなく笑う。 そんな様子に気が付かないわけがない幸村。ちらりと日向、仁王を交互に見ると、顔をしかめた。


「(なるほどね)」


一方で丸井や切原も仁王と日向の関係をうっすら気付いている。仁王とよく一緒にいるのだ。気が付かないほど鈍くはない。だが、丸井、切原共に日向に特別な感情を持ち始めている。「これ以上ライバルが増えてたまるか」というのが本音である。


しかし、彼女からしてみたら悲しいこと。
何もしていないのに、どうして?と日向は心の中では思っているに違いない。


蘇る記憶が彼女をまた弱くさせる。植え付けられた過去の記憶は消えないものだ。仁王の目は彼女が恐れる目によく似ていて、怖いと彼女は思う。


「日向」
「…どうしたの?幸村くん」



優しい幸村の瞳が日向を捕らえる。日向の髪をかき混ぜる手はとても気持ちがいいものだった。



「怖くなったら、いつでも俺を頼るんだよ。俺はお前の味方だ。一人で抱え込んだらダメだよ?」



幸村はいつでも日向の味方だった。日向自身、それに助けられている部分が沢山ある。幸村は彼女にとって大切な人物。

いや、今は幸村だけでない。

大切な人物が沢山いる。
それだけで彼女は安心する。



「…うん、ありがとう」



日向が笑うと、幸村、丸井や切原は安心したように互いに顔を見合わせた。



「先輩は俺が守るッス!だから安心してて下さいね!」
「てめっ!?抜け駆けはずりぃぞ!日向!赤也なんかより俺を頼れよ!」
「はあ!?抜け駆けは丸井先輩じゃないッスか!」
「うるせぇよ!先輩特権だバーカ!」



二人の言い合いはいつものこと。それでも日向には楽しかった。クスクスと笑う彼女は可愛らしい。



「二人とも何言ってるの。日向が頼るのは俺だけどね」



その笑みは日向でさえ、凍り付けさせてしまう超一流の笑みだった。


幸村には叶う人はいないだろう。

日向はそう思ったに違いない。


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