鋭い牙、長い爪、目は獲物に飢えているようで、グルルルルル…と喉を鳴らしている。
「なっ…何、だよ…アレ…」
恐怖で声もままならない丸井の姿はお雪により奴には見えていない。
“小娘が…何のようだ”
野太く低い声。
それだけで身体が震える。
「その子を助けて下さい。まだ幼い子供です」
膝を付け、頭を下げる。なるべく低姿勢で願いを申した。
「何で…あんなに頭下げてんだよ…前みたいに祓ったり出来ねえのかよ…?」
「"魔物は強い。少しでも機嫌を損ねたら危ないんです。しかも日向ちゃんは魔物なんて専門じゃ…"」
丸井の問いにお雪は不安げな瞳で日向を見つめる。
“なかなか強い力の娘だなぁ…ヒヒッ…だが断るね。このガキを喰うと決めた”
「…っ!」
ザシュッ
血飛沫が舞う。
「"日向ちゃん!!"」
日向の細い右腕が魔物の鋭い爪により、無残に切られた。制服はビリビリに破れ、露わになる腕は痛々しいほど、大量の出血。
“邪魔をするなら、もっと痛めつけるぞ…ヒヒヒヒ”
腕を押さえる日向はキッと魔物を睨み付ける。魔物はニヤリと不気味なほど笑っていた。
“旨そうな人間…あぁ…早く喰っちまおう”
「苦し…い…よ。助けて…助けて」
そして蒼太の身体を大きな奴の手がガッチリと掴む。片手で収まってしまう蒼太の身体。蒼太の苦しげな声など気にせず魔物は喰う気だ。
「ダメ…!」
“…!この小娘!”
日向は魔物の腕に聖水をバシャッとかける。魔物の腕は火傷のようにジュウウ…と爛れていた。それに怒りを表した魔物は日向の小さな身体を吹き飛ばした。咳をする彼女の口からは血が流れ落ちる。
「陰野!!」
嫌いな相手などどうでもいい。日向は死ぬんじゃないか、丸井の頭にはそれが浮かんだ。
“邪魔をするなと言ったはずだ”
「私を、」
“…何だ?”
魔物は日向をもう片方の手で鷲掴みにする。苦しそうに顔を歪める彼女だが、もう一度、魔物に言った。
「…私、が代わりになります」
“…ほぅ”
日向の言葉に魔物は不適に笑う。それにお雪や丸井は驚きを隠せない。
「私の方が…その子より、きっと美味しいです…」
「"日向ちゃん!"」
何を言っているんだ。お雪の顔はそう言っていた。悲しみ、怒り、お雪の表情は沢山の感情を物語る。
だが魔物には何の関係のないことだ。
魔物は考えた。
子供より日向の方が大きさ的にも良い。しかも彼女は強い力を持っている。そして何より女だ。女は見栄えも良いし、何より旨い。
決めた。そういった顔で目を光らせる。
どうやらこいつは感情が備わっている、レベルの高い魔物だった。
“いいだろう。代わりにお前を食べるとしようか…”
蒼太を放してやり、目の前の日向に集中をする。
ザシュッザシュッ!
「っ、ああ…!」
痛みで声を出す日向など気にすることなく、腕、足、腹部を切り刻む。
傷は増え、血もダラダラと流れ、衣服はボロボロとなっていた。下着も露わになってしまうが、そんなことなど今の日向には考えていられない。
「陰野!もういいから!止めろよ!代わりとか言うなよ!」
お雪の雪の中で悲痛な叫びを上げる丸井。
嫌いだと言った自分の弟をここまでして助ける理由が分からない。いくら自分に気がある女でもここまでしない。
“さぁて…まずはここだ。女はここが旨い…”
「っ、あ…!」
ベロリと舐めたのは日向の胸だ。服の間に舌を滑らせ、膨らみを襲う。胸の膨らみは女しかない。故に一番旨いらしい。
「っ、陰野!止めろよ!何で…ここまですんだよ!嫌いだって…俺はお前を傷付けたんだぞ!」
丸井は彼女を見ていられなくなる。日向の白い肌は血に染まっていたからだ。分からない、分からない、分からない。丸井の中はぐちゃぐちゃだ。
「助けてって…言われたんだよ…?小さな子供に言われたら…助けなきゃ…」
ふわり、笑顔とはいえないが、日向はしっかり笑っていた。
“もう丸呑みしてやるかぁ…”
魔物は日向をグッと持ち上げ、口の前にぶら下げた。
ヤバい。
誰もがそう思う。
日向はにこっと笑っており、それは生きてくれと言っているみたいであった。
ワンワン泣くお雪、口を開ける魔物。
もう終わりだと誰もが思った。
「…っ、日向!!死ぬな!お前が死ねば、幸村君や赤也達が悲しむだろ!」
丸井の言葉に日向は閉じかけていた目をうっすら開いた。
「あいつらだけじゃねぇ…俺だって…俺だって、お前に死んでほしくねぇよ!!」
その瞬間
日向の赤い瞳が光が辺り一面を纏った。