…あぁ!マジ意味分かんねえ!
何でみんなあんな女が良いんだよ!
幸村くんもジャッカルも柳や真田だって…!赤也なんかこの前まで嫌いだって言ってたのに、部室で一体何があったんだよ!
「ブンちゃん、今日は機嫌悪いナリ。何かあったんか?」
「は、はあっ!?別に何でもねぇよ!」
プリッとか相変わらず仁王はわけわかんねぇけど、こいつは俺側だろぃ?仁王は大の女嫌いだし。柳生は、わかんねぇけど…
…ああぁぁ!イライラする!全部あの女の所為だ!
「…俺先帰るわ」
「えっ!あ、あぁ」
いつもは寄り道したいしたい言ってるからジャッカルは俺が帰るって言ったらめっちゃびっくりしてた。
あーあ、マジ腹立つ
帰り道も、どっかからいい匂いがしたなぁって思っても無視して帰った。
俺はあいつに暴言を吐きまくった。泣いて赤也に助けを求めろ。そしたら本性が分かる。そう思ってたのに…
あいつは泣くどころか、ただ黙ってじっと俺の話を聞いてた。まるでその通りだと言われているようで、俺はとんでもない罪悪感に襲われた。
何で俺がこんな気持ちになんないといけねぇんだよ。
「…ただいま〜」
弟達に心配かけたくねぇし、家では考えないでおこうと、俺はドアを開けた。
その瞬間、バタバタと焦っているような足音がこっちに近付いてくる。
「兄ちゃん…!」
「おぉ。どうしたんだよ、そんなに慌てて」
一番下の弟、哉太(かなた)が半べそをかいて、俺の腰に抱き付いてきた。
「蒼太兄ちゃんが…!」
「蒼太がどうした?」
蒼太(そうた)は次男で今は熱で寝てるって聞いてるけど…何かあったのか?
「死んじゃう…!」
・
俺は急いで二階に駆け上がり、蒼太の部屋に入った。中には苦しそうに息をしている蒼太がいた。
「蒼太…?」
顔色が悪すぎる。
熱で赤くなるどころか真っ青になっていて、血の気がまるでない。
母ちゃんと父ちゃんは今必死に病院を探しているらしいが何処に行っても原因が分からない。
「兄、ちゃん…?」
「蒼太!?大丈夫か?お前、何でこんなっ…!熱じゃねぇのかよ!」
喋るのがやっとの状態で、蒼太は弱く笑う。それが見ていられなくて俺は泣きそうになった。
「泣か、な、いでよ…俺は、大丈夫、だよ…?」
俺はどうすることも出来ず、蒼太の手を握った。
「お前…何で、こんな冷てぇんだよ…?」
いつものあったけぇ蒼太の手は此処にはない。冷たい手は、死ぬと言う言葉を連想させてしまった。
その後、母ちゃんと父ちゃんが帰ってきた。
顔が少し窶れていて、目にはいつもの色がない。俺達は明るいで評判の家だった…はず。
「今日…いっぱいお医者さん回ったの。でも…何処も原因が分からないって…」
母ちゃんはすんすんと静かに涙を流し、泣いていた。
「昨日までは普通だったのに…どうして…」
「俺達は病院を探す。お前達は蒼太に付いていてやってくれ」
その日の晩は質素な飯だった。
母ちゃんと父ちゃんはまた病院を探し回ると言い、家を出て行く。多分、今日は戻らないだろう。
俺はぐずぐず泣く哉太を寝かしつけ、蒼太の部屋に行った。
「蒼太…何か悪いもんでも食ったのか…?何かばい菌でも触ったのか…?分かんねえよ…」
ベッドで横になる蒼太の頬は白かった。いつもはあんなに真っ赤に色を付けるのに、今はない。蒼太は哉太より悪戯好きで元気でやんちゃだった。友達もいっぱいいて健康だった。なのに何で急に…?
可笑しい。
何か疑問に感じる。
これは本当に医者が解決出来ることなのか?と。
「俺、のこと、今、危ないのが、探してるんだって…」
「危ない…?」
「うん…今、は…お雪ちゃんが隠してくれてるけど…もうじき見つかっちゃうって…」
何だ?何の話をしてるんだ?お雪ちゃんって誰だ?隠してるって?見つかるって?
「お雪ちゃんが…ご主人様に…助けてくれるように頼んでくれるって…凄く、強くて、優しい女の子なんだって…」
「蒼太…!何の話してんだよ!お前、病気なんだろぃ?」
蒼太は小さく首を横に振った。否定を示していた。
「俺、お化けに、悪いことしちゃったんだ…だから…危ないって…」
蒼太はそれだけ言うと、眠りについてしまう。
少しだけ、寝ているだけだよなって心配になってしまった。
母ちゃん、父ちゃん…これは医者じゃあどうにも出来ねぇ。否、出来るわけねぇんだ。
蒼太を助けれる奴を俺は1人しか知らない。
嫌いだと言った時、酷く寂しそうに笑うあの女の顔が思い浮かんだ。