最近、お雪ちゃんの様子がどうも可笑しい。
霊力を酷く減らして帰ってくることが多く、私に何か言いたげにウロウロしていることが多々ある。この前までは楽しそうに「蒼太くん」という子の話をしてくれていたのに今ではそれはめっきりなくなってしまった。
…私は何かしてしまったのだろうか。
「お雪ちゃん。最近ちょっと変じゃない?」
「"えっ…?"」
「霊力をよく減らして帰ってくるよね。何かあったの?」
考えていても分からないので直接聞いてみることにした。お雪ちゃんは綺麗な水色の瞳を揺らして私を見る。きっと何かある。
「"あのねっ…蒼太くんに、お兄さんいるんだけど…"」
「へぇー!蒼太くんお兄さんいるんだ」
「"う、うん…"」
お雪ちゃんがやっと蒼太くんの話をしてくれたのは良いことなんだけど、浮かない顔をしている。
「"蒼太くんって赤い綺麗な髪をしているんだ…"」
「赤い、髪…?」
パッと浮かんできたのは『嫌いだ』と言った赤い髪の彼だった。色んな暴言や嫌いなんて私は過去に体験した。だから慣れているのに、慣れているはずなのに…どうしてこんなに悲しいんだろう。ああ、私って弱いなぁ。本当に弱い。弱虫なんだ。
「…うん。それで、どうしたの?お雪ちゃん」
弱い部分を見せたくないから、私は安心させるように笑顔を作る。
「…っ、ううん!何でもない!私、家に戻ってるねー!」
「あっ…えっ!お雪ちゃん!?」
お雪ちゃんは何か言いたげだったけど、ピュッと雪をヒラヒラ残して消えてしまう。
「お雪ちゃん…」
やっぱり様子が可笑しかった。何か言いたそうな目をしていた。…私は頼りないのかな。少しでもみんなのために何かしたいのに。
「はぁ…」
ついつい溜め息を漏らし、トボトボと廊下を歩く。
「日向」
「えっ、は、はい!」
ぽけっとしていたため彼女が声に気付くまで時間がかかった。焦って返事をした方向を見ると、ジャッカルくんが笑って立っていた。でも、それはいつもの笑顔とは違う気がした。
「ちょっといいか?」
あ、前にもこんなことあった気がする。
何ていうか、こういうのってデジャヴって言うんだっけ。
「ブン太のことなんだけどよ…」
「丸井、くん…」
丸井くんとジャッカルくんはダブルスのパートナーだと聞いた。あぁ、嫌だな…何かまた思い出しちゃった。弱虫な自分め。
「あいつ、最近何か可笑しいんだよ。日向何か知ってるか?」
「う、ううん…」
「そっか…今、弟が色々大変らしくてよ。悪いな、引き止めて」
ジャッカルくんは「じゃあ」と言ってこの場を去って行った。
…赤い綺麗な髪で、お兄さんがいて、弟がいて、
何かが引っかかる。
「もしかして…お雪ちゃんが言ってた男の子って、」
私は、出来ればこれは間違いであってほしいと願った。