場所は屋上庭園。
「あぁ、お雪ちゃんってあの小さい女の子?何回か会ったことあったよね」
風に靡く幸村の藍色のウェーブはいつ見ても美しい。王子様と言われるのも分かる。
「うん。お雪ちゃん、幸村くんのこと格好いいって言ってたよ」
「はは、ありがとうって言っておいて」
日向のブラウンの髪もそよそよ風に吹かれている。因みに今は2人で花の水やりをしている最中だ。
「お雪ちゃんってばね好きな人が出来ちゃったって。もうびっくりしちゃったよ。ふふ、恋する女の子って本当に可愛いなぁ…」
日向は頬を両手で押さえ、まるで自分のことのように頬をやんわり緩めていた。幸村もそんな日向を見て、ニコニコと嬉しそうだったのは見ていて非常に分かりやすい。
「あの…幸村くん?」
幸村の熱い視線があまりに日向へと向けられるので、日向は恥ずかしそうに幸村を見る。
「あ、ごめんね。日向が可愛いなぁって思って」
「わ、わわ私じゃないよ!お雪ちゃんの話だってば!」
「やだな、聞いてたよ。でも日向があまりに嬉しそうだったから可愛いなぁって」
さらりと恥ずかしいことを言ってしまう幸村に、日向は真っ赤になりながらも水やりに集中すること。
「あっ、俺先生に肥料貰ってくるね。日向待ってて」
「う、うん」
幸村はそう言うと屋上庭園を出て行ってしまう。ポツンと残った日向はベンチに座って待っていることに。
「お雪ちゃんの好きな人ってどんな子だろう。同じ年くらいって言ってたよなぁ…」
彼女のことを思い浮かべながら日向は花を見つめていた。
すると、屋上の扉が急にバンッと音をたて、開いた。
「あれ?さっき部長、ここにいるって言ってたんスけど…」
「いねぇじゃん!赤也の所為で無駄足しちまった!」
切原ともう1人、クチャクチャとガムを噛んでいる丸井ブン太がそこにはいた。
「ん?ああっ!日向先輩!」
切原は日向を見つけた途端に此方へ走ってくる。ベンチに座っている彼女に犬のようにピョンと飛び付いた。
「き、切原くん?」
「はいっ!俺ッス!いや〜幸村部長探してたんスけど、まさか日向先輩に会えるなんて!」
抱き付く切原には少しだけ慣れたらしく、戸惑いながらも彼を受け止めていた。
切原があくまで一方的日向に抱き付く中
パチン。
と、ガムが割れる音が耳に響く。
赤い髪は太陽に反射して眩しい。日向には彼がどんな顔をしているのか分からなかった。
「赤也。お前何で女なんかと仲良くしてんだよ」
普段は明るい彼からは想像出来ないくらい低い声だった。
「丸井先輩、日向先輩はその辺の奴等とは違います!」
「んなこと分かんねえだろぃ?お前が一番警戒心高かったくせにどうしたんだよ」
切原に文句をぶつけ終わると、丸井は次に日向をキッと睨む。可愛らしい顔なのに、日向にとっては怖いだけであった。
「女は信用出来ねぇ。お前もだ。ちょっと仲良くなれたからって調子に乗んなよ。化け物女!」
「っ、丸井先輩!」
「俺は」
切原の言葉など聞くきもなく、日向に数々暴言をぶつける。女が嫌いでも日向にここまで言う必要はないはずだ。ほっとけばいいものを、丸井は何処か焦っているようだった。普通ならまず泣くが、日向は黙って淡々とその暴言を耳に入れていた。まるで反論はないといった様子。
「お前が嫌いだ!」
一気に話した所為か息を少し乱していた丸井は最後、それを言い終えると乱暴に屋上から出て行ってしまう。
切原は何も言わない日向が心配で隣にそっと座った。
「…先輩、大丈夫ですか?丸井先輩が、そのっ…」
「…大丈夫だよ。全然平気!…慣れてるし、」
にこりと笑う日向に余計に不安になる。切原はどうしたらいいか分からず、彼女をただ抱き締めるのだ。
「先輩…俺はそんなこと思ってないです。丸井先輩も勢いで言っただけッスよ…」
「…うん。ありがとう」
へなりと眉を下げる日向に切原は更にぎゅっと抱き付くのである。
それがバレるのも時間の問題。
「…赤也。お前、何してるの?」
「!ゆ、幸村部長!?い、いや!あのっ!」
「日向を抱き締めるなんて良い度胸してるね?ん?」
「か、勘弁して下さいよ!」
「ちっ。しょうがないなぁ。今回だけね。あ、日向」
「どうしたの?」
「もし、自分を責めてるなら大きな間違いだからね」
「!?」
幸村には叶わないというオマケです。