太陽の光は和らげにポカポカと暖かいものとなってきた。まだまだ寒いと思っていたが、徐々にそれも無くなっている。

マフラーをしている生徒は殆どいない。

故に日向は目立つ。マフラーをし、カーディガンを着ている彼女はまだ真冬のような姿だった。今の時期、日向を見付けるのは簡単であろう。登下校中の彼女は何だか可哀想。


「(私も、もうすぐ3年生かあ)」


当の本人は赤い鼻を擦りながら、頭の中でそんなことを考えている。

今は3月。学年が上がるということで、今から女子生徒は大盛り上がり。
一方では「テニス部の人と同じクラスになりたい」また一方では「○○君と〜」またまた一方では「私は〜…」など、流石テニス部と言いたい。


「(私は、さつきちゃんと絢音ちゃんと一緒になれたら嬉しいなぁ…)」


ニコニコと笑い、只今ファンクラブ会議中の2人を思い浮かべながら日向は足を進める。


そんな時、彼女の後ろからドッドッドと何か駆け寄ってくる音が聞こえてきた。それはもう凄く勢い良く。



「日向先っぱぁぁぁぁい!」
「ふきゃっ…!」



背中に襲ってきた重みに、ふらっと少しよろけてしまう。変な声出たなぁと日向はちょっと恥ずかしそうにマフラーに顔を埋めた。


「ふきゃって何スかー!先輩可愛い!」
「き、切原くん。急に抱き付いたらびっくりするって言ったのに…」
「だって日向先輩に会えるの嬉しいんです!」



明るく人懐っこい笑顔に日向はいつも負けてしまう。元々、押しに弱い日向が勝つことが無理な話ではあるが。


あのストーカー事件以来、切原の日向への愛は凄い。ついでにスキンシップも。彼女を見付ければ、嬉しそうに走り寄ってきて、ベタベタチョロチョロ周りにいる切原。日向自体は可愛いと気にしてないが、周りから見ると、切原はウザイ犬だ。日向を見れば尻尾をブンブン振り、日向を見付けられなければ、耳を垂らす犬に見える。


「私も、切原くんとお話するの楽しくて、嬉しいよ。でも、抱き付かれるのはやっぱり恥ずかしいかなぁ…」
「〜っ!日向先輩可愛すぎ!」
「えっ、き、切原くん?わっ、苦しい〜…!」


再びぎゅっと抱き付く切原に日向は苦しいと声を出すが、止める気配のない可愛い彼にもう何も言えなくなった。

流れで手を引かれ、一緒に登校することに。


日向と切原はこの頃よく一緒に登校することがある。友人が忙しい日向は1人で登校をしていることが多い。一方切原は朝練がある。なので互いにタイミングが合った時だけではあるのだが。


仲良く登校している姿は非常に微笑ましい。微笑ましいのだが、


「切原くん…あのね、ちょっと近くない?」
「えー?そんなことないッスよ!これくらい普通ッス!普通!」
「え、そうなんだ…」


納得してしまっているが、決して普通ではないことを分かってほしい。日向の腕に絡み付き、時折抱き付いたりしている。これはもはや恋人かとツッコミたくなるほど。分かっていない彼女は良いように切原のペースに巻き込まれている気がする。可哀想に。


「で、でも…みんな見てるよ?やっぱり恥ずかしいし、ちょっと離れようよ…」
「大丈夫大丈夫!どうせなら見せ付けてやりましょうよー!」
「えっ…?わっ、!ちょっ…きき、切原くん!」


今度は正面から抱き締められ、日向はバランスを崩し、切原の腕に収まってしまう。恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、日向は「やだやだ」と訴えるが切原は何故か余計に迫ってくる。




「…赤也」
「いって!」


突然切原の頭部をノートが襲い、痛さで切原は日向から離れていった。








「やっ、柳くん!」
「大丈夫か?すまない。赤也が迷惑を掛けたようだ」
「別に掛けてませんよ柳先輩!痛かったッス…!」


切原の暴走を止めたのは柳だった。ノートの角で殴ったため、切原はかなり痛そうだった。


「え、と…大丈夫です。ありがとうございます…!」
「ならいい」


ふっと笑う柳は日向の頭を優しく撫でる。彼はいつもこの行動をする。この行動が日向は好きということを知っているからだ。


「赤也も程ほどにしろ。精市が見てたら危険な確率は100%だ」
「げっ!そ、それは勘弁ッス…」


サーッと顔を青ざめる切原は幸村がどれだけ怖いか知っているからであろう。




「ところで日向。俺達は同年代。敬語は遣わなくてもいいんだが」
「何だか癖で…。それに柳くんは大人っぽくてつい」
「ふむ。しかし友人なのだから、普通に話してほしい。…敬語だと、少し悲しい」


柳が少しだけ、しょげたように感じた。珍しいので何だか可愛い。


「えっと、じゃあ、これからは敬語を遣わないようにします…じゃなくてするね」
「あぁ、」


嬉しそうに笑う柳はしっかり同年代の顔をしていた。


「ちょっ、ちょっとー!仲間外れにしないで下さいよー!」
「わっ、!」
「赤也…お前は人の話を聞いていたのか」


また日向に飛び付く切原にそれに驚く日向と呆れて溜め息を吐く柳。



微笑ましい光景で、周りの生徒達も「またかあ」といった様子で見つめていた。


一部は嫉妬の目を向けている者もいる。



そして、





「何だよ、あれ…」



膨らませたガムをパチンと割り、動揺した様子で見つめる者もまたいた。


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