「うぅ、寒い…」


息をハァとかけた手はちょっとだけ赤くなっていて、自分の手なのに他人の手みたいに思えた。手袋買わないとなぁ、なんて思いながらふと腕の傷が目に入る。包帯を巻いてあるけど、何だか火傷みたいになってて気持ちが悪かった。祓う時は体力をやたら使う。昨日ぐっすり寝れたのは力を使いすぎたからか。むう、意外と手こずったなぁ。




「先ぱぁぁぁい!!」
「!?」


何てしみじみ考えていたら大きな声が私の耳にキーンと響く。声の主は私を目掛けて猛突進で、気が付けばその主にバフッと抱き付かれる形になっていた。忘れるはずもない、声の主ははにかむ顔が可愛らしい切原くんだ。


「おはよーございます!日向先輩!」
「お、おはよう…。あ、あのっ、離れてくれると嬉しいなぁ、なんて」
「えー!嫌ッスよ!朝から先輩に会えたし!あ、顔真っ赤ッスよ。可愛いー!」
「き、切原くん…!」


前までの態度が嘘のように、切原くんはぎゅうぎゅう抱き締める力を強めていく。気が付けば彼の腕の中にすっぽり埋まってしまっていた。


「先輩いい匂いがするー!柔らかいし…あー!(何か興奮する)」
「切原くん…く、くすぐったい、!い、一旦離れようよ!」
「えー…はーい」


ようやく離してくれた。幸村くんも抱き付く癖があるのかは分からないけど、よく抱き付いてくる。よくあるとはいえ、やっぱりドキドキする。顔が熱いです。


「先輩!一緒に学校行きましょっ!(幸村部長いないしチャンス!)」
「あっ…う、うん」


流れで何となく一緒に学校に行くことになった。何かいいのかなって思ってしまう。でも嬉しそうにニコニコ笑う切原くんにいいかって思ってしまうのもまた不思議。


切原くんは学校へ行くまで色々なことを話してくれた。しかし包帯を見ると、しょんぼりと悲しい顔になる。


「先輩…俺の所為で怪我させちゃってすんません…日向先輩の腕、すげー綺麗なのに、俺の所為で…」


私の腕を優しく握って、本当に申し訳ないといった顔をする切原くん。彼は優しい。口が悪かったり、嫌な人にはキツい態度をとったりはするけど、真っ白な人間なのだ。

だからこそ、。


「大丈夫だよ。こんな傷、すぐ治るから平気。切原君が悲しい顔する必要ない。切原くんには笑顔が似合う」


大丈夫の気持ちを込め、うねうねとした独特な彼の髪を撫でる。


「…へへっ!ありがとうございます!」


ぱぁっと眩しいくらいの笑顔を見せてくれた切原くんに安心する。やっぱり彼はこの太陽みたいな笑顔が似合う。



「あっ!そういえば見て下さいよ!このほっぺた!」


切原くんはブスッと頬を膨らませる。見てと言われた頬を見ると、手形みたいに赤く腫れ上がっていた。そこまで目立つ訳ではないけど、凄く痛そう。


「ど、どうしたの?赤く腫れてる…痛い?大丈夫…?」
「わわっ、!」
「あっ…ご、ごめんなさい!」


つい切原くんの頬に触れてしまった。冷たかったのかビクッと切原くんは肩を跳ね上げ、ほんのり頬を朱色に染めていた。


「あっ、えっと!真田副部長に鉄拳されたんですよ!あの人のマジ痛いッス!毎回毎回…日向先輩から何とか言ってほしいくらいッス〜」


痛い痛いと頬を押さえながら切原くんはブスッと唇を尖らせる。可愛いなぁなんて思った。


「あははっ…!真田くんらしいね。ふふっ、鉄拳って…面白いね」


真田くんのイメージがあまりに一致しすぎて、ついつい笑いが止まらなくなってしまう。



「日向先輩、やっと笑った!」
「、え?」
「だって先輩、緊張で顔強張ってましたもん。先輩も、笑顔が似合ってるッス!」



切原くんはニカリと笑い、そんなことを言った。
笑顔が似合ってるなんて思ったことがない。ましてやこんなに真っ直ぐ言われたことだって。顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。思わず寒さなんて忘れてしまいそうになる。


私が「ありがとう」と小さく呟けば、切原くんは更に嬉しそうに笑うのだ。




私はこんな純粋な子と一緒にいていいのだろうか。


私は化け物だ。


切原くんは他人より何倍も憑かれやすい。それは綺麗な心だから。良いものや悪いもの関係なく、彼を好む。だから彼だけ強めの御守りを渡して、対処した。


私といたら、?


幸村くん達はそういったことにはまだ強いし、言っても聞かないだろう。

でも切原くんは…まだ間に合うかもしれない。



「切原くん」
「何ですか?」


言わなきゃ。
私が切原くんを守るには離れなきゃダメなんだよ。



「君は、とてもとても純粋で素直で真っ直ぐで、素敵な人」
「先輩…?」
「だからね、」


キョトンと綺麗な瞳が私を見つめる。言わなきゃ、言わなきゃ。






「私と、関わっちゃダメだよ」




「……えっ…?」



私は反応を見ることもなくその場を抜け出した。


ごめんね


私は、こんな形でしか君を守ってあげられない、とても弱い人間なの。




君は、

私には眩しすぎる。


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