「わたしのおめめはどうしてあかいの?」
小さな少女は小さな手を左目に当て、哀しげ目を伏せる。
「クラスのみんなはね、きもちわるいって。色がちがうのはおかしいって」
少女の大きな瞳には今にも零れ落ちそうなくらいの涙が溜まる。
それで、と続けようとする少女の頭を大きな手がポンと撫でた。その手は先ほどからずっと隣にいた年老いた男のものだ。
年老いた男はやがてにこやかに笑う。
「気持ち悪くない、おかしくない。日向はわしの孫じゃ。ただほんのちょーっと変わっとるだけ」
カラカラ笑うその表情は不思議と痛む心を掻き消してくれるようなそんなもの。
「その目は日向は守ってくれる大切なもの。大きな大きな力になるんじゃ」
「守ってくれる、?」
「いや、まだ分からんでえぇ。…まぁ、その内分かるじゃろうよ」
少女の手を取る顔は優しげであったが、どことなく儚げでどこか悲しそうに笑っていた。
「これからも辛いことも悲しいこともいっぱいあるかもしれんがな、日向ならきっと乗り越えられる。守りたい、一緒にいたいと想う仲間が出来る」
幼い少女にはあまり理解出来ない様子だが、男の笑った顔を見て心底嬉しそうに歩みを進めた。
*
「(……夢、か)」
眩しい朝日の光で大きな瞳がゆっくり起き上がる。すると鏡に映る自分が見えた。鏡の中の自分を見つめるとスルリ指を滑らせる。
「嫌い、大嫌い」
瞳がゆらゆら揺れる。
コツンと鏡を殴りつけてもただ自分の手が痛いだけだった。
真っ赤な瞳を早く隠したくて、彼女は眼帯を素早くつける。隠れた片方の瞳に少しだけ安心の色を見せた。
「随分、懐かしい夢を見たなぁ。急に何だろう」
誰かに言ったわけでも、独り言でもないようなそんな呟きは直ぐに空気になって消える。
溜め息を漏らすと準備のため立ち上がり、制服に白い腕を通した。
準備を終えた彼女は家を出ようとする間際、髪に髪飾りをつけ、鏡に向かってもう一度
「大嫌い」
と吐き出すのだ。