ムカつくムカつくムカつくムカつく…!
何なんだよあの女!
つか何で俺はあんな女のことでムカつかなきゃなんねぇんだよ!!ムカつくのに、嫌いなのに、頭からあの女の顔が離れない。あいつもどうせ他の女と一緒だ。いつもみたいに顔だけで寄ってくるミーハー女に決まってる。
なのに…何でだよ!
俺を見て、怯えるような恐怖に満ちた顔が忘れられない。
憧れや好意みたいな感じの目は沢山向けられる。
でも、あんな怯えた弱い目は初めて向けられた。
なのに幸村部長やジャッカル先輩にはあんなに穏やかな目をする。大好きで大切な人を映す目だった。俺でも分かる。あいつの目には俺なんか映っちゃいない。ただ怖いものを見る目。
さっきだってそう。
俺を見た途端、目の色がなくなったみたいで、逃げるように後退りをしていた。
…幸村部長にはめちゃめちゃ気を許してて、周りなんて気にせずあんなに仲良さそうに話してたくせに。それが何故か異様に腹が立ち、すっげー癇に障るっていうか何ていうか。
だぁぁぁ!!マジ意味分かんねぇよ!マジムカつく!
「ふーん…何か機嫌悪そうだね、赤也」
「!?ゆ、幸村部長!」
ひょっこり現れるのは我等が魔お…部長の幸村部長だった。この人急に現れるからマジビビる。
「怖くて近付けないって周りが言ってるよ。俺は平気だけど」
…いや、そりゃあ幸村部長に怖いもんなんかないっしょ。つか俺そんなあからさまに機嫌悪さ出してたのかよ。通りで女子が話しかけてこないわけだ。
「何で不機嫌なんだい?凄く馬鹿みたいだから止めとけば」
「(え!馬鹿って…)別に、何でもないッスよ」
言えるわけない。
さっき部長といた女が原因ですよ、だなんて。
「まぁ、別に深入りはしないけど、日向は傷付けないでね」
「日向?」
「あれ?名前知らなかったんだ。さっき俺と一緒にいた子って言えば分かるかな?」
「な、!?」
部長、気付いてる。
見透かすようなあの目は俺が何で不機嫌なのか、全部知ってるみたいだった。
「あいつ、凄く脆い奴なんだ。でも変なとこで強いんだよね。今、頑張って沢山のことを克服してきてる。あんまりキツいこと言っちゃダメだよ」
あの女の話をする部長は柔らかい表情をしていた。普段、俺達に向ける顔とはまた違う優しい顔だった。
「…何で、そんなにあの女が良いんですか?」
俺は女が嫌いだ。
幸村部長だって大の女嫌いだったのに、何であいつだけは良いんだ?分かんねえよ。
「うーん…そうだなぁ。理由となると難しいなぁ…強いて言えば…」
唸りながら、理由を探す部長。何だ、大した理由なんかないんじゃねぇの?ただ遊びでとかに決まってる。
でも幸村部長は真っ直ぐ、綺麗な瞳を俺に向ける。本気の顔だ。試合とかで見る顔に似てる。
「大好きだからかな」
凛とした声だった。
あまりにハッキリしていて、俺の耳に鬱陶しいくらい残る。
「赤也もすぐ良さに気付くよ。気付かなくていいけど。じゃあ」
幸村部長が去ってからも、声とあの女の顔がいつまでも離れない。
「っ…何なんだよ…」
あ゙ぁぁ!!余計、意味分かんねーよ!
…とりあえず、テニスしてぇ。
それにしても、
今日はやけに肩が重いな。