「(化け物だって)」


久しぶりに言われた言葉。
まさかまた言われるなんて思ってもいなかった言葉は日向を酷く傷付ける。個人的にだが、日向は切原に恐怖心を抱いている。数々の暴言、彼女に対しての嫌悪、そして存在の否定。


「(怖かったけど…、そんなことより…)」


日向には気になることが1つあった。


「(あの黒いものは…)」


一瞬だけ見えた、黒い塊のようなもの。切原の肩にベッタリとハッキリ。


黒い塊といえば悪い霊の類だ。しかし一瞬だけしか見えなかった。日向の場合、そういったものは目に見え続ける。だが、すぐ消えてしまったとなると、勘違いかもしれない。


「(何もなければいいんだけど…きっと気のせいだよね)」


少し気にはなるが、きっと気のせいだろうと思い込み、彼女は教室のドアを開けた。



「あ、おはよー!日向!」
「おはよ、日向」
「さつきちゃん、絢音ちゃん、おはよう。会議は終わったの?」


日向を見つけ、駆け寄ってくる、テニス部ファンクラブ会長・吉田さつき、副会長・柴崎絢音。


「終わったよー!いや〜、今日も大変だったわ」
「ちょっと、毎回纏めるこっちの身にもなりなさいよ」


明るく笑う吉田に柴崎はデコピンをお見舞い。吉田は「い゙っ!?」とおでこを押さえる。


「てか日向、朝、切原君にスッゴい怒鳴られてなかった?」


柴崎は吉田を無視し、心配そうに日向に目を向けた。今朝の一件をどうやら知っていたようだ。


「私、嫌われてるみたいで、…だから2人も私といると同じ様に思われちゃうかもしれないから…だから、えっと…」


なかなか上手く言えない日向。自分といたら嫌われてしまうかもしれないから離れなければ、でも離れたくない。


「(私は、何て、我が儘なんだろう…)」


段々と暗くなる日向に今度は吉田からのデコピンが彼女に命中する。突然のことで日向は目をまん丸くパチクリとさせるしか出来なかった。


「馬鹿やろう!!何暗い顔してんの馬鹿!」
「(ば、馬鹿って2回言われた…)」


吉田は珍しく真面目な顔だった。だから日向も何も言えない。


「さつきは馬鹿だから言葉には出来ないだろうから、私が代わりに言うけど、」


柴崎は怒りを剥き出しにしている吉田を押しのけ、目の前でキョトンとしている日向の前に立つ。


「いくら私達がファンクラブの会長、副会長でもあんたの方が大事なの。ファンの奴らが切原君の味方でも私達は日向の味方。どんな理由でも日向を傷付けられたらファンなんて辞めてやるわよ。もともとファンじゃないけど」


言い切ったぞ、といった柴崎の満足げな顔は日向にとって、キラキラしているように見えた。


「そうだよ日向!私達、日向が大好きで可愛くてしょうがないの!」


吉田は自分より小さな日向の頭をワシャワシャと乱暴に撫でる。グシャグシャになった髪を触りながら、日向は涙ぐむ瞳を綺麗に細めた。



「ありがとう…」



笑った日向にホッとした2人は顔を見合わせ、安心そうな表情を浮かべた。







「てかてか!日向ってば幸村君と仲良すぎじゃなーい?このこの〜!」
「え、えぇ!?違うよ!そんなんじゃないってば!」
「私は柳君といるの見たわよ。2人で何してたのかしら?」
「絢音ちゃんまで〜…だから違うって!もー!どんな想像してるのー!?会長と副会長さん!」








(分かってないと思うけど、あんたなら、)
(テニス部と何かあっちゃっても許しちゃうんだよね〜)


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