寒さが徐々に厳しくなってきた今日この頃。

立海ではチェックのマフラーをぐるぐる巻く生徒で溢れていた。指定だからといっても、同じ物を身に付けている人が何人もいるとなると、少し気味が悪い。

日向は極度の寒がりだ。マフラーは勿論、ブレザーのジャケットの下には灰色のカーディガンを、靴下はいつもの倍の長さであるソックスを、と着込んではいるがまだ寒い。体温の低い彼女は氷のように冷たい。頬に両手を当ててみても、冷たくて温度なんて分からない。

日向は白い息が自分の口から漏れるのを、ぼんやり眺めていた。





「おはよ、日向」
「!あぁ、幸村くん、おはよう」


ポンと日向の肩を叩いて現れた幸村はマフラーに口を窄めていた。


「あれ、今日1人なの? いつもいる友達は一緒じゃないんだ」
「うん。今日はファンクラブの会議があるから先に行くって」
「ふーん。大変だね」


他人事の幸村だが、テニス部のファンクラブの会議である。故に原因は君達でもあるんじゃあ、と日向は思う。


「友達が会長と副会長なんでしょ?日向は俺とかと話してて、お咎めとかないよね。(あったらそいつ消すけど)」
「(気のせいかな。寒気が…)」


心の中の恐ろしい幸村はさておき、確かに日向にはそういった類はない。今まで一度もだ。幸村と非常に仲が良いことは結構有名である。

だがないのだ。


「分かんないけど、2人は優しいから、きっとそんなことしないよ」


にこやかに笑う彼女を見て、幸村も同じように笑う。和むらしい。

本音を言ってしまうと、2人は日向贔屓なので、「日向はいい」ということらしい。しかもそれぞれ恋人がいるという事実。…テニス部ではないらしいが。それに友人たちは自分たちがなりたくてファンクラブに入ったわけではない。うわべの会長、副会長というわけだ。


「まあ、いっか。俺は日向と話せればいいし。じゃあ俺日直だから先行くね」


幸村は校舎へとゆったり歩いて向かって行った。何故急がないのだろうか不思議だ。その間に女子の黄色い声が響き渡ったのは言うまでもない。




「人気だなぁ、幸村くん」


「おい」



幸村についてぽつりと呟いた直後、後ろから低いトーンのあまり良いものではなさそうな声がかかった。

びくりと震う彼女はぎこちない動作で後ろを振り向くと、あの時、テニス部部室で会った切原赤也がいた。だから余計に日向は怖くなった。部室で眼帯を外した本人を前に怯えるように脚が震える。


「な、にか…?」


怖い顔でじっとこちらを見る切原に早くこの場を去りたいと思う日向は声を絞り出す。しかし声はあまりにも弱々しく、細いもので、切原が聞き取れたかどうかは分からない。逃げたい彼女の足は勝手に後退りを始める。カタカタ震える姿は見ていられない。幸村がいたら即抱き締めてくれるだろう。

そんな彼女の腕をガシッと切原は掴んだ。力が強く、痛いと感じた日向は顔を歪める。



「あんた何なの?部長とかに色目使ってさ、迷惑。つか前のこととか謝んねーから」


腕を掴む力をギリッと強める。「いっ…」と彼女は微かに意思表示を漏らした。日向は怯えた表情で切原を見る。切原はそれを見て、今度は彼が顔を歪めた。



「あんた見てるとイライラすんだよ!俺の前に現れんじゃねぇ!消えろ!化けもんみたいな目しやがって、!」
「…っ、!待って!切原くん!」


掴んでいた手を離すと、切原は走って校舎へと消えていってしまった。





「(化けも、の…か)」


残された彼女は眼帯に触れ、乾いたように笑い、目を細める。幸い、今は生徒が周りにいなかったため、会話を聞かれることはなかったが、日向は1人悲しそうに笑っていた。



「(切原くんに、黒いモヤモヤが見えた気がした…)」


振り払われた手を見つめて、冷静に考える。




「気のせいかな…」


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