一回目は屋上庭園。
幸村くんを探して屋上庭園に行くと、1人の女性がいました。幸村くんのファンの方かと嫌悪を抱いて様子を見ていたら、ジョウロを片手に水やりをし始める。とても穏やかに花を見つめるその姿に思わず目を奪われてしまう。この学校にもまだこんなに素敵な方がいらっしったんだと思った。制服もきちんと着こなしており、派手なお化粧も香水もしていない、純粋な方。
私は雷に打たれたような感覚に陥ってしまいました。
この時、この瞬間、私は可笑しくなったかのように彼女のことが頭から離れなかったのです。
二回目は学校外。
陰野と記された神社でまた彼女を見つけてしまう。
掃除をしていたのだろう片手にほうきを持っており、数人の子供達と楽しそうに話していました。
陰野という神社はよく知っている。故に彼女がどういう人物か推定出来てしまった。でも柔らかに笑う彼女の笑顔を見て、そんなことはどうでも良いことなのだと私は思う。
ただ純粋に彼女と一言でも話したい、あわよくば仲良くなりたいと感じた。
私は可笑しいのだ。
三回目は真田君と彼女が話しているのを見てしまった時。
羨ましい、ただそう思った
そして四回目。
いつの間にか好きになっていた彼女と話すことが出来た。
嬉しくて、嬉しくて、何度も噛んでしまったけど、話しが出来た。
思ったような素敵な方でもあり、またそれ以上に素敵な方でもあった。
とにかく彼女は可愛らしくて、優しくて、私は更に惹かれてしまいました。
「柳生くん」
「あ、!すみません…ぼーっとしてしまって…」
過去をぐるぐる巡らせていると、彼女の声が私を呼ぶ。
焦ってしまった私は一つ咳払いをし、彼女へ視線を移した。流石に前のように噛みまくったりなどしませんよ。今は中庭の花に水やりをする日向さんを手伝っている所。
「ふふ、上の空って感じでしたよ。」
こうして可憐な微笑みを私に向けて下さるのが奇跡のような気がして、夢じゃないかと思う。
「日向さん」
「何でしょう?」
くるりとこちらを向くと彼女の髪飾りがシャラリと揺れた。パッチリと目が合い、一瞬金縛りにあったみたいに身体が固まる。
「貴方はとても素敵な方だと私は思います。笑顔がとても可愛らしい方です」
恥ずかしい言葉だけど、伝えたい。風で香る彼女の香りにドキドキしながら、大きな瞳を見つめる。
「どんな日向さんでも私はそう思える自信あります。貴方の味方です。…ただそれだけ分かってほしくてですね」
何を言っているんでしょうか、私は。顔から火が出そうなくらい恥ずかしい想いです。しかし私より彼女の方が真っ赤な顔をしていた。白い頬を紅色に染め、私から視線をそっと逸らす。
暫くは両手で両頬を覆い隠していたが、落ち着くと彼女はちらりと此方を見て、ふわりと笑った。
「ありがとうございます。…でも、私はそんな素敵な人間じゃないですよ」
それがどういうことを意味するのか分からなかったから、何も言わなかった。
いえ…儚い笑顔に何も言えなかったのです。
「手伝ってくれてありがとうございます。私はこれで、」
全て片付け、この場を去ろうとした彼女は「あ!」と何か思い出したらしく、ポケットの中の物を私に差し出した。
「良かったら」
今度こそ去って行く彼女に手渡された物を見る。
「御守り、」
可愛らしい包みの御守りが私の手の中にあった。
口元が緩んでしまうのは紳士としていけませんので秘密ということで。
「(…大切にさせていただきます)」