「お、もい…」


日向は自分が見えなくなるくらいの大量の荷物を両手に抱え込んでいる。不運なことに担任から「資料室に持ってってくれ!」と明るい調子で頼まれたらしい。1人で運べるような量ではなかったのだが、元々お人好しで断れない性格の日向は戸惑いながらも了承をしてしまった。


「誰かに手伝ってもらえば良かったかなぁ、」


ふぅ、と息を吐くと荷物を持っている手にぐぐっと力を入れた。足はふらふらと不安定で、腕はプルプル震えており、今にも手から荷物が零れ落ちてしまいそう。



階段に差し掛かった時、それは期待を裏切らない。



「あっ、!」



漫画のように彼女の身体はぐらりと傾いた。キュッと目を瞑って、身体を縮こませ、襲い掛かる痛みをじっと待つ。



しかしいつまで経ってもその痛みを感じることはない。

それは彼女の腕を力強い手が引っ張り、傾いた身体を戻す人物がいたからだ。



「大丈夫ですか?女性がそのような大荷物は無理がありますよ」



日向は恐る恐るそっと、自らを引いてくれた人物に目を向ける。優しい男性の声色に、丁寧で落ち着いた話し方は少し聞いたことがあるような気がした。


「あの、あ、ありがとうございます」
「いえ、礼には…!?」


日向の顔を見た途端、男の顔は変わる。あたふたと頬を赤く染め、慌てて彼女を支えていた手を離した。


「あ、あのぅ…重かったですか?何だか、ごめんなさい…」
「いいいいいえっ!そっ、そのようなことは決してありません!」


挙動不審な様子は先ほどまでの大人な雰囲気が嘘のように思えるほどである。初対面の人間が苦手な日向もあわあわしているので、端から見たら2人は不審者のようなものだ。


「じゃ、じゃあ私はこれを持って行かないといけないので失礼します…」


去ってしまうのが良いと思った彼女は荷物をまた抱えて、早足にその場を去ろうとした。


が、彼の手が彼女を掴む方が早かった。



「ててて手伝います!」













荷物を半分ずつ分け合って、2人はぎこちなく廊下を歩く。何故こうなったのだろうかと日向は考えるが、答えは浮かばない。ただ彼は優しいんだなという答えだけは分かった。



「なな、名前も名乗らず申し訳ありません!わ、私は柳生比呂士と申します」

「い、いえ…!あっ、私は陰野日向、です。手伝ってもらって、ありがとうございます、えっと、柳生くん」


日向がへなりと眉を下げ、はにかむように笑うと、瞬く間に柳生は赤くなってしまう。思えば先ほどから柳生は日向が何らかのアクションを起こす度に反応をする気がする。肩がトンッと当たれば即座に離るくせに、日向がよろけると支え、また離れる。不思議すぎる。

そんなことを思いながら歩き続け、何とか資料室へと到着。断然、柳生の方が荷物が多いのだが、彼は平気そうである。流石。


「えっと、あの、柳生くん、ここで大丈夫です」
「い、いいえ。最後まで手伝います。というか手伝わせて下さい」


大分慣れたのか、柳生の話し方も段々普通になっていた。気が引けたが、手伝わせて下さいと強い物言いの彼に日向は断れず、手伝ってもらうことに。


「あ、あの、!お名前でお呼びしても、かかっ…構いませんか?」
「えっ、!あ、はい!好きに呼んで下さい」
「ああありがとうございます!あっ…これはここですか?」
「えっと…それはこっちです。私の方が近いので、私が入れますね」


ちょくちょく噛む柳生だが何とか慣れてくれたので、少しずつ日向と話をしてくれる。そんな会話の中で柳生が持っている資料を日向が受け取った。自分の方が資料を入れる場所が近いようで、少し高いが脚立を使い、ゆっくり登り始める。


「んー…」
「き、気をつけて下さいね。落ちたら危ないですし…」
「は、い…大丈夫です」


柳生はピンと手を伸ばす彼女をハラハラと見守る。
日向はぐっと最大限に手を伸ばし、棚に資料を押し込んだ。


「入った…っ!?」


押し込んだ資料はピッタリと棚に入ったが、その反動で脚立がぐわんと大きく揺れた。

落ちていく日向は空中にふわっと浮く。ギュッと目を閉じ、落ちるのを待つ彼女。何ともデジャヴ。






「っ、…?」


背中にはほんのり温かい人間の独特の感触。
肩に回される大きな手に近くに感じる顔に日向は振り向けない。

日向の下には彼女を抱き締めるかのような体制で下敷きになる柳生がいた。


「ふぅ…大丈夫、ですか?何とかセーフみたいですね」
「あ、あ、ぅ…」


にこりと笑う柳生があまりに近く、徐々に顔に熱が集まる日向。

最初は不思議そうに眺めていた柳生だが、状況を理解した途端、どこかのスピードスター顔負けの速さで、彼女から離れた。


「あ、ありがとうございました。柳生君に迷惑かけてばっかでごめんなさい…」
「いいいいえっ!で、では私は失礼します!お怪我がなくて本当に良かったです!アデュー!」



ピュンっと部屋から出て行ってしまった柳生を見て日向は思う。




「…アデュー?」


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