時は昼休みとなる。

日向は結局、朝の時間では柳を見つけることが出来なかった。そこで幸村に柳はいつも何処にいるかと尋ねると「図書室とかにいるじゃない?」と教えてもらった。
早速、図書室へと足を踏み入れてみる。生徒は図書室をあまり利用してはおらず、まさに無人であった。一応、入り交じる本棚を隅々まで確認しながら、人影がないかと探してみるものの見当たらない。


「あっ、またこんな所まで一緒に来てー…ダメでしょう?」


見当たるのは、浮遊霊。日向の後をふらっと憑いて来たらしい。遊ぼう遊ぼう!と彼女の服を透ける腕で懸命に引っ張る。


「お家に帰ったら遊ぼうね。だから今は神社に帰りなさい」


ぶーっと口を尖らす、動物や子供の浮遊霊は「ね?」と困ったような日向に渋々だが戻って行った。





「…結局、浮遊霊しかいなかったなぁ」
「ほう、俺は浮遊霊だったのか」



日向は聞き慣れてはいないが聞いたことがある声にびくりと肩を強ばらせた。つい最近聞いた声で、今自分が探している張本人。



「や、柳くん…!」
「あの様に1人で話していると怪しまれてしまうぞ。しかし幸運にも今、図書室には俺とお前しかいないがな」


ぬっと後ろから現れた柳はノートにサラサラと何かを書き込んでいく。未だに驚いている日向はバクバクする心臓をキュッと押さえた。柳という男は心臓に悪いなと思う。



「俺に用があり図書室に来た確率100%、だ」



まるで日向が何を言いたいかまでも分かっている言い分だ。否、分かっているだろうが、あえて柳は彼女からの言葉を待っている。日向は結んでいた口を開き、柳を焦点に合わせた。



「あのっ、昨日はごめんなさい!真田くんにもさっき言いましたが、優しくしてくれたのに、逃げ出して、ごめんなさい!女の子は苦手だと聞きました。けど、私のような人間に分け隔てなく接してくれて、嬉しかった、です…だから…」



次の言葉、また次の言葉は下手くそながらも懸命に探す彼女を柳はじっと見つめていた。



「あ、りがとうございます」



そんな日向に柳は「フッ」と笑う声を口から漏らした。日向はそれを聞き、「えっ」と声を漏らす。



「俺はあのくらいで怒ったりなどしない。ましてや迷惑をかけたのはこちらの方。お前が謝る必要はない。テニス部は女子に嫌悪感を抱いている。過去にも色々あってな…許してくれとは言わないが、あまり恨まないでやってほしい」


柳はほんの少し眉をハの字に下げる。日向は柳がこんな顔をするとは意外だと思う。


「そんな、恨むなんてとんでもないです。私があんな風に思われるのも無理ないですよ。テニス部の皆さんは人気ですから…」


パタパタ手を横に振り、否定の意志を示す日向に柳はまた笑う。


「中でも精市は大の女嫌いだった、のだが、まさか仲が良い女子がいるとは驚きだ」
「私も、幸村くんが何で私なんかと仲良くしてくれるか未だに…分かりません」
「本当の自分は周りには見せない、計り知れない強さを持った精市が、お前にだけには素を見せている」
「それはっ、違う、と思い、ます」


淡々と話を続ける柳に日向はストップをかける。柳はノートに書く作業を止め、おどおどする彼女に目を向けた。


「幸村くんは、確かに強い。けど、弱い。誰よりも、繊細で、人の気持ちが分かるから。強いのは、辛いことを乗り越えたから。でも、ちゃんと弱い部分もあると思い、ます」


段々と小さくなる声だったが、柳は聞き逃さないよう、少し近くに顔を寄せ、黙って聞いていた。

「ああ、彼女はちゃんと見てるんだ」と声には出さなかったが、柳は思う。



「私は、真田くんや柳くんの方が分からない。ほぼ初対面なのに、2人は女の子が苦手なのに、どうして私と、」


今度は日向からの質問だ。確かに2人は彼女と初対面。しかもテニス部は女という生き物に苦手意識、嫌悪を抱いている。分からないのも当然だ。



「それはお前、陰野日向が今までの奴らとは違うと分かったからだ。精市やジャッカルはお前を信用している。俺や弦一郎は気付いたんだ」
「気付いた、?」
「お前は人間をよく見てくれている、優しい奴だと」


日向の頭を優しく撫でる柳は薄く笑っていた。思うのだが、柳はつくづく上品に笑う。


「赤也や丸井や仁王は女子を特に警戒しているが…柳生は、分からないな」



話が上手く纏まらないと思った柳は日向の眼帯をすっと一度だけ撫でると、



「俺はお前を信用するとしよう。よろしくな、日向」



それだけ言い残し、図書室を出て行った。



残された日向は嬉しそうに、ちょいと眼帯に触れ、幸村に報告のメールを送信するのであった。





(2人が名前を呼んでくれました。)





これを見た幸村が携帯を物凄い力で握っているのを見た真田が顔を真っ青にしていたとか、そうでないとか。


|

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -