謝りに行くと決めたのは良いが、肝心の人物等が見つからない。息を切らしている日向はキョロキョロと慌てた様子で辺りを見回していた。


「どこに、いるの…?」


門、テニスコート、長い廊下…様々な場所を探すが、いない。決心が揺らぐ前に見つけなければ、幸村が与えてくれた大切なチャンスを逃してしまう。





「っはあ…い、た!」





そして、見つけた。



丁度、職員室を出た黒い帽子の皇帝、真田弦一郎だ。日向に気が付かず、逆の方向に進もうとしている真田に日向は急いで駆け寄る。



「待って…!」



弱いがしっかり響いた声と共に、日向は真田の服の袖をキュッと掴んだ。突然の彼女の声と掴まれた服に真田は少々よろけてしまう。



「陰野…?」
「あ、あのっ!えっと…」



振り向いた真田は驚いた様子で彼女を見た。オロオロとする彼女は周りから見れば怪しいがそれでも懸命に人間として当たり前のことを成し遂げようとしている。



「き、昨日はごめんなさい!すごくすごく優しくしてくれたのに、逃げ出してしまってっ…本当にごめんなさい!」



力一杯に頭を下げる日向に今度は真田がオロオロとしだす実に可笑しな光景。




「何故お前が謝るのだ?謝るべきはこちらの方だ。陰野は何も悪いことをしてはいない」


深く、深く、スローモーションのようにゆっくりと真田は頭を下げた。



「すまなかった。部員が大変迷惑をかけた。俺はあまり感情に鋭い方ではないが、昨日のお前は傷付いていたと思う。本当にすまなかった!」
「そ、そんなっ…!頭を上げて下さい!」


日向は無理矢理、真田の頭を上げさせると、威厳溢れるその顔をじっと見つめる。気まずそうにたじろぐ真田であるが、今彼女には関係はない。




「私のことを知っても、優しくして下さってありがとうございます。私、嬉しかったです」




ふわっと微笑み、一番言いたかった言葉を告げると真田は一瞬目を見開いたが、すぐに同じように笑ったのだ。ぽすっと彼女の頭を撫でる。真田は日向を友人のような、しかし妹のような、そんな変な感覚だと感じた。



「こちらも礼を言うぞ。友人としてこれからもよろしく頼む、日向」
「!は、はい!」


名前を呼ばれたことが嬉しくて、つい日向は大きな声で返事をしてしまった。

また2人で笑う。




そんな時




「真田くん、チャイムが鳴りますよ。そろそろ戻らないと…!」
「え、と…?」


真田を呼ぶ、眼鏡をかけた男は日向を目に入れると、カチンと固まってしまった。わたわたする彼に不思議そうに日向は首を捻る。


「む、すまんな柳生。では日向、教室に戻るぞ。お前も遅れてしまうだろう」
「私は大丈夫です。柳君にも大事な用がありますし、真田くんは、えっと…そちらの方と戻って下さい」


日向は「ありがとうございます」ともう一度だけ言うと、柳生という男に小さく会釈をし、柳を探しにまた歩いた。











「さ、真田くんは…あの女性とお知り合いなのですか?」
「…何となくだが放ってはおけん、そんな新しい友人だ」
「そ、うですか…」


気のせいかもしれないが、柳生の顔が曇る。真田はそんな柳生を見て、分からんとばかり彼を見る。


「柳生、日向と知り合いだったのか?」
「い、いえ…そういうわけではないのですが、ただ…」
「ただ、?」
「いえ…!何でもありません。さ、教室に戻りましょう」



結局のところ、よく分からないまま真田は柳生の言う通り、教室へと戻るぞことにした。


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