「ていうか、日向。まさかこれで終わりとか思ってないよね」
一件落着したかのような和やかな雰囲気の中、幸村はにこりと笑いそう言う。それに対し、日向は心底分からないといった顔をしていた。
「はぁ…真田と柳のこと忘れてない?」
「あ、」
やっぱり、と呟く幸村に変わり、日向はまた不安げに瞳を揺らがせる。ジャッカルは元々友人であったが、彼ら2人は違う。昨日初めて会ったのだ。不安になるのも無理はない。
「日向。君は2人に何をしなきゃいけない?」
「謝らなきゃ、いけない」
「うん、そう。あともう一つ。分かるかい?」
「…分からない」
小さな子供に言い聞かすかのような幸村の態度は日向をしっかり理解している証拠だ。日向はこういった人間関係のこととなると、思考は小さな子供のように何も分からない。変なところには敏感だということはあえて触れないでおく。
「日向のことを知って、尚且つ態度を変えないでくれた。ジャッカルと同じだ。しかも彼らは女が苦手。それなのに日向と友達になりたいって。それはお前を信じてるんだ。分かるね?」
揺れる日向の瞳を捕らえるように幸村は彼女の頬を両手で包み込み、目を合わせる。
「……ありがとう、?」
半信半疑ではあったが、彼女は確かにそう言った。幸村の耳にはしっかり届いている。
「正解。ほら、早く行ってきな!何か言われたら、俺が2人をぶっ飛ばしてあげるから」
再び背中を押された日向。
だがその手は1つではない
2つあった。
「俺も応援しかできねぇけど、頑張れよ!」
「あ、いいとこ取り」
「……幸村くん、ジャッカルくん。本当にありがとう!」
日向の細い足が校舎へと向かい、小さな背中が人混みへと消えていく。
「…幸村、本当は行かせたくなかったのか?何か不機嫌だぜ」
「当たり前でしょー。俺の日向なのにどんどん男と!しかもテニス部の奴らと知り合っちゃってさー」
「ははっ、本当に大事にしてんだな。お前が意外だなあ」
「日向のためだからね。あいつ、人間恐怖症っぽいから俺が支えなきゃ壊れちゃうかもしれないし。…まぁ、可愛くてしょうがないっていうか…あれ、結局俺が必要としてるみたいになってるし」
「今日は珍しく幸村が語るな。好きすぎるだろ!」
「…何でジャッカルに話してんだろ。むかつくから殴っていい?」
「え、ちょっ…いてて!」