屋上庭園の水やりを手伝ってたところ、幸村は手を止め、突然彼女に目を向ける。それを不思議に感じた日向もまた手を止めた。何故ここにいるのか分からないが、シャボン玉を吹く仁王もお菓子を食べる丸井も水で遊んでいる切原も静止する。それでも幸村の視線が彼女からぶれることはなかった。


「幸村くん…?」


動き出したのは視線に耐えきれなくなった日向の方だった。困ったように控えめに笑うと、彼の名前を呼ぶ。名前を呼ばれた彼はやがて口をゆっくりと開いたのだ。



「日向、隠し事してる?」



何を見て思ったのかは不明だが、幸村の言葉に彼女は分かりやすく動揺を示す。ビクッと体を揺らし、目を見開く姿は誰がどう見ても図星としか思えないが、それでも彼女は何とか深呼吸をした。


「ど、どうしたの急に…」
「うーん。何となく」


幸村の何となくは時々と言うより、かなりの確率で当たる。まるで柳からデータでも貰ったかのように正確なことを言う彼に日向はいつもヒヤヒヤするしかない。そして、今もまた同じような感覚に陥っていた。

「(隠し事って、柳くんが私に言ってくれた内容かな…)」

と内心で幸村の言う隠し事とは如何なることかを懸命に考えた末に出てきた結論はこれだ。柳が誰にも言ってはいけないと言ったあのお手伝いの件ではないかと彼女は考えた。これしか幸村に黙っている内容は思い付かなかったのだ。


「隠し事って…、何の話をしとるんじゃ?」
「さぁ?日向に限ってないと思うけど…、なぁ?」
「部長の何となくって当たるんスよね〜…怖いっ!」
「聞こえてるからお前たち」


こっそりと話す3人に構わず、幸村がにっこり笑うと大袈裟に彼らは怯えだす。今日の練習は倍だ〜!絶対ラリーやらされる〜!などと叫んでいたのを日向は苦笑いしながら、眺めていた。幸村の目が自分から移ったかなと思っていた矢先、彼の目はやはりこちらを向く。


「で、どうなの?」


ニコニコと笑う幸村の目が怖い。そんなに大きな隠し事をしていないのに何故こんなに怯えなければいけないのかと彼女は心の中で少し文句を言う。それでもずいっと綺麗な顔を近付ける幸村に文句など言えなくなってしまう。


「隠し事なんてしてないよ…!」


パタパタと手を慌ただしく振ると幸村は少し不満そうに唇を尖らせる。その顔ですら美しいので何だか負けた気分。
ともかく隠し事はないと否定し続けると諦めたのか幸村は再び花に水やりを始めた。日向はホッと息を吐くと気を紛らわそうと、近くで水と戯れる切原に声をかける。


「切原くん。そのホース持って向こうの水やりしない?」
「え、えっ!?し、します!(先輩からのお誘い!)」
「じゃあ一緒にしよっか」


日向に誘われたことが嬉しかったのか切原はニコニコと可愛らしく笑い、彼女のあとを追っていく様子はまるで犬が飼い主に寄っていくそれと同じものに見えた。ぎゅうっと彼女の腕にしがみつく姿は誰が見ても微笑ましいもので、彼女自身もそれを同じように笑い受け止めていた。


「えへへ〜、先輩と一緒嬉しいッス〜!」
「そうかそうか。俺と一緒がそんなに嬉しいのか」
「げっ!丸井先輩…」


彼女の腕にしがみつく切原を引き剥がすかのように丸井は間にずいっと割り込む。日向の肩に手を回すと得意気にガムを膨らませ、パチンとウインクを1つ。驚いた彼女は肩に感じる温かさと丸井との距離に頬を赤く染めた。


「俺も手伝うぜ、日向!」
「ちょっ!丸井先輩!邪魔しないで下さいよ!」
「うるせぇ!お前ばっかにいい思いさせるかよ!」


ぎゃいぎゃい騒ぎ立てる2人の後ろを日向は可笑しそうに笑いながら追いかける。切原と丸井の間に挟まる彼女は楽しそうで何よりだ。

そしていつもならその中に入り込む、幸村と仁王は彼女たちの姿を遠目で眺めていた。


「隠し事、のぅ。気になることでもあるんか?」
「いや。本当に何となく」
「ほーう。ま、日向ちゃん楽しそうじゃし大丈夫じゃろ」
「そうだね。でも仁王に言われるのは何だかとてもムカつくな!」
「!ぼ、暴力反対ナリ!」






(小さな隠し事は、)
(やがてみんなが知ることとなる)



「(柳くん…、隠せる自身がなくなってきました)」


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