手に握られたのは1枚の紙。内容はお手伝いさんの募集であった。日向は不思議そうに紙を見つめ、渡してきた本人にまん丸に広げた目を移す。



「あの、柳くん。これは一体…?」


何度見てもお手伝いさん募集の紙。柳が何故この紙を渡したかなんて日向には分かるまい。当の柳本人はフッの笑みを浮かべるのみ。彼女の頭には???と他人から見ても分かるくらいの疑問が浮かんでいた。


「実は今ここは人手が足りないらしく、手伝いをしてくれる人を探しているそうだ」
「そうなんだ…、えっと、でも何で私に…?」


お手伝いを探しているからと言って何故自分にそれを言うのか分からない。日向はただじっと紙を見つめた。内容は本当にお手伝いだった。どうも人が書いたようなチラシに少し疑いを持ったが、柳に限ってこれが偽物なことはないだろう。


「ここの方たちには世話になってな。だから助けてやりたい。だが俺は部活が忙しくてどうも無理そうだ」
「それで、私を…?」


そうだと柳は頷く。彼が一体何を考えているのか分からなかったが、彼女が断れるはずもない。お世話になって、きっと柳はその人たちの役に立ちたいと考えているに違いない。自分の恩人に近いであろうテニス部含む柳の頼みだ。日向は紙を少し強く握る。



「日向」



優しい声色で柳は彼女の名を呼ぶ。その表情はやんわりと柔らかくてとても温かい顔だった。何だかすごくホッとするような顔に強くなる手の力が緩んでいく。


「お前はいろいろなことに挑戦し、変わった。勿論良い方向にだ。だからやってみないか?必ずやって良かったと感じる。いや、感じさせてみせる」


真っ直ぐな柳の言葉にもう彼女に何ら迷いなどなかった。最後の彼の言ったことに疑問を持ったものの、確かに柳の言ったことは本当だ。自分がしたことは良い方向へと変わっている。いろいろなことに挑戦したい。まだまだ変わりたい。答えなど1つだった。



「柳くん。是非、私にやらせてほしい」



彼女の答えを聞くと、柳は満足したようにニヤリと笑う。頭を優しく撫でられると、日向は照れたように頬を赤く染め上げ、目を伏せた。


「ありがとう。礼を言う」
「ううん。こちらこそ私を選んでくれて、ありがとう」
「フッ…詳しいことはまた連絡する」


少し名残惜しそうに彼女に触れる手を離すと柳はくるりと向きを変え、去ろうとしていた。彼の凛々しい後ろ姿を見つめていると、彼は足を止める。そうして再び彼女をじっと見つめると、綺麗な指で紙をピラリと靡かせる。



「ああ、そうだ。このことは俺とお前の秘密だ」



じゃあ楽しみにしてると口元に描かれた弧は妖艶にその形を作り出した。そんな色っぽい笑みに日向はまた顔を赤くしてしまう。ドキドキする胸を押さえ、今度こそ後ろ姿を見送ると小さく溜め息を吐いた。
大人っぽい柳のペースに飲まれ、ついつい甘い気持ちになってしまう。ドキドキしっぱなしで少し悔しい。と言うかテニス部はみんな狡い。


それにしても、



「楽しみって、どういうことなんだろう…?」



ニヤリと不敵に笑う柳の顔。
それがどういう意味なのか今はまだ分からない。


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