「…そうか。全部解決したということだよな」
「うん。景吾くん、本当にいろいろとありがとう」


気にするなと跡部は日向の髪をスッと撫でる。サラサラした艶やかな髪は簡単に下まで通った。

テニス部のことやいじめのことがやっと解決した彼女は跡部に伝えに来ていた。何かと助けてくれた跡部には感謝してもしきれない。何かお礼をと言ったのだが、跡部はやはりというかいらないと言った。



「ねぇ、本当に何かお礼するよ?」
「いらねぇよ。お前が笑ってるならそれでいい。それだけで充分だ」
「何か納得いかないなぁ…」


唇を尖らせる彼女が愛らしくて、跡部はクスリと小さく笑う。日向はそれに恥ずかしそうに頬を染めた。



そんな時、彼女のポケットに入っていた携帯電話が着信音を鳴らして揺れる。出てもいいかと聞き、了承を貰うと通話ボタンをピッと押した。



「もしもし」
『日向ちゃん!!俺や!愛しの蔵ノ介くんや!』
「蔵ノ介くん?びっくりしたぁ」
『いやぁ、ホンマは電話来るまで待ってようかと思ったんやけど、気になってしもて』
「ごめんね、私からかけるべきなのに」


電話の相手は白石だった。少し興奮気味なところから彼女のから聞く結果が気になって気になって待てなかったのだろう。いや、あの意味深な電話からよく待ったとは思うが。


「あのね、蔵ノ介くんが頑張れって応援してくれたから私頑張れたよ!ありがとう」
『…さよか!良かったなぁ』
「これで胸を張って、また四天宝寺のみんなにも会えるよ」
『またいつでも遊びに来てや。俺は、俺らは大歓迎やで!会いたい会いたい〜ってみんなうるさくて叶わんわ(財前とか財前とか財前とか)』
「私も、会いたいな」
『…俺かて会いたいわ』
『俺も日向さんにめっちゃ会いたいッスわ』
『ちょっ…!?財前!俺の携帯!つか俺と日向ちゃんのラブラブタイム邪魔すんな!』
『うっさいキモい。はぁ、日向さん愛してます』
『財前コラァァァ!!』
『日向ちゃんアタシよぉ!この2人が喧嘩しだしちゃったから一旦切るわね!またこっちいらっしゃいね!』
『あ〜!小春ズルいぃぃぃ!ワイもワイも!またな〜姉ちゃん!!』


ブチ


「切れた…?」



呆気なく白石との会話は終わってしまった。いや、まぁ伝えるべきことを伝えられたのでよしとする。それにしても相変わらず賑やかだなぁと彼女はしみじみ感じた。



「何だ?俺がいるのに他の男と電話かよ」
「えぇ、何で景吾くん拗ねてるの?」



クスクスと笑う彼女に今度は跡部が唇を尖らせた。

それにしても日向にいつも通りの温かい笑顔が戻り、ひとまず安心した。まさか彼女がいじめの犯人に1人で立ち向かうなどこれっぽっちも思っていなかった跡部は成長していくのを少し寂しく感じるのは彼女には内緒だ。



「いじめの犯人に1人でとは勇気あるじゃねぇの。今はそいつらどうしてんだ?」
「ふふふ、あのね!」
「アーン?」






















ある昼休み。
購買へと走る人もいれば、お弁当を広げ友人と机を向かい合わせにする人もいる。教室から出ていき外で食べる人もいる立海は案外自由なのかもしれないと彼女は感じた。


「日向ちゃん、今日は誰と食べるん?」
「あれ、そう言えばお前の友達いねぇな」


近くにいた仁王と丸井はお弁当の包みをせっせとカバンから出す日向に疑問を持ったのか、不思議そうに尋ねる。いつも教室で友人と食べるかクラスの別の友人と食べるかまたは友人がいないとき幸村からの誘いでテニス部と食べるかのどれかだった。

しかし今いつもの友人の姿はなく、またクラスの友人とも食べる様子はない。


「今日は別の子たちと食べる約束してるの。さつきちゃんと絢音ちゃんは購買に行ってから合流するって」
「別の子?なーんだ、俺誘おうかと思ってたのによ」
「ブンちゃん抜け駆けはいかんぜよ」


ちげぇよ!と丸井は頭より顔を赤くさせ、プリプリと怒りと照れと焦りを隠していた。隠せていないことは言わなくても分かるだろうが。
はてさて話を戻して、彼女と食事する相手が気になる。友人がいるとは言ったがまさか男も一緒じゃあとありもしない考えがぐるぐると頭を巡らせ、勝手にいてもたってもいられなくなってしまう。



「え、あ、あのさ…!一緒に食べるのって、」
「あっ、陰野さん!」



丸井が日向に気になったことを聞こうと身を乗り出したと同時に違う声がかかった。女特有の高い声であった。仁王も声に反応してか、そちらを振り向くと驚いたように目をパチパチ丸くさせる。

日向を呼んでいたのはまさしく先日まで彼女をいじめていた女たち本人であった。実はテニス部一同は彼女たちの顔を知っていた。だからこそ余計に驚いたのだ。何故、日向と彼女たちが…?

もしかしたら、また何か悪い話かもしれないと心配していた2人だが、そんなこと聞く余裕もなく笑顔で駆け寄る日向を見送るしかない。



「な、なぁ…あれ追い掛けた方が良くねぇか?」
「そ、そうじゃな。心配じゃし、行ってみるぜよ」
「その必要はないよ」



背後からかかったアルトの美しい声にビクリと2人の肩が跳ねたのがうかがえる。ゆらりとウェーブを揺らして微笑むのは我らがテニス部部長である幸村精市であった。日向が走り去った方向を見ながら、それは綺麗に笑っていたもので男ということを忘れてしまいそうになる。(これを言ったら幸村が怒るので秘密に)



「幸村くん…!でもあいつら日向のこといじめてた奴らだろぃ?」
「まあ待てブンちゃん。必要ないとはどういうことじゃ?」
「やっぱり知らなかったんだね2人とも」



幸村の言葉にハテナを浮かべる2人にはぁとため息を1つと彼女から聞いたのは自分だけかと言う優越感ににこりと笑う。とりあえず幸村はパワーSの力でチョップをしておく。いてぇと頭を押さえる2人に幸村は気にせず完結に話し出した。



「話をつけた日に友達になったんだって」
「は?友達!?」
「めちゃくちゃだろ?まあ、流石って感じだけど」
「よくなれたのぉ…」
「毒が抜かれちゃったんだよ。あのバカ真っ直ぐで純粋な日向に」










「くしゅん…!」
「あら何、風邪?」
「ううん…、違うけど」
「誰か噂してんじゃない?」
「えぇ、それはないよ」
「陰野さん謙虚すぎるでしょ〜」
「そうそう。本当に変な人よね」
「むう、酷い…!」
「あはは!ごめんね」
「うう、許す!」





「すっかり友達ねぇ。やっぱり日向は大物だわ」
「でも私たちより仲良くなっちゃうのはやだ〜!」


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