携帯電話を片手に日向は豪華なベッドに腰を掛ける。あれから跡部の家へと案内させた彼女は今日だけお泊まりをさせてもらう形となった。先ほどまで冷えきっていた体は温かい湯船に浸かるとだいぶ良くなり、今はホカホカしている。

そして、日向は携帯電話の通話ボタンを押そうとしては止め、また押そうとしての繰り返しだった。



「ああ、もう!頑張るって決めたんだから、私」



何を迷っているのだと自分に渇を入れ、意を決してそのボタンをポチリと押した。

プルルルル

着信のコールが流れると嫌に緊張した。早く出てくれないと、意志が曲がってしまいそうで怖い。ああ、早く早く。ドキドキする胸を抑え、震える手で耳元の着信音を聞く。






『もっ、もしもし…!?』



切ろうかなと思っていた時、やっと繋がった。相手は焦ったように息をハァハァと切らし、こちらにもそれが伝わる。彼女は、ホッと緊張が抜けたのを感じた。



「…ごめんね。忙しいのに電話しちゃって、」
『ええねんええねん!いやぁ、日向ちゃんからの電話珍しいからびっくりしてもうたわ〜』
「ふふっ、そうだっけ?」
『小悪魔か!いつも俺からやろ?』

「いつもありがとう。蔵ノ介くん」



電話越しからでも白石が飛ぶように喜んでいることがよく伝わる。彼女の電話の相手は白石であった。安心した彼女はゆっくり呼吸をすると、いよいよ本題に入る。



「あのね、蔵ノ介くんに聞いて欲しいことがあるの」
『聞いて欲しいこと?』
「きっと何言ってるのか分からないと思う。それでも聞いていて欲しい、」
『…ん、話してみ?』



日向は息を吸う。
そして、話を始めた。



「私はずっと誰かに頼ってばかりだった。いつもどんな時でもみんなは私を助けてくれた」
『おん』
「私は結局1人じゃ何にも出来ないの。誰かいないと何にも出来ない弱虫なの」
『おん』
「1人は平気だったのに、今は怖い。独りぼっちはイヤだ…、寂しいよ、すごく」



彼女の震える声に白石は静かに耳を傾ける。泣いてしまいそうな彼女を今すぐにでも抱き締めてやりたい。でも、きっと彼女は助けを望んでいるわけではないはずだ。白石には彼女が考えていることが、きっと分かっているのだろう。



「だから決めたの。頑張るって決めた。頑張って、私は同じ高さにいたいの。いつだって、同じ目線でいたい」
『日向ちゃん、』
「蔵ノ介くんとも、四天宝寺のみんなとも…、だから、っ」



声を押し殺して彼女は泣いた。白石に気付かれぬように、涙を流す。胸が熱い。誰かを想い泣くことは苦しい。

しかし、白石が気付いていないわけはない。彼女が泣いていることなど知っていた。彼女が言いたいことをよくは理解していないが、何となく分かった。ああ、何で自分の近くに彼女がいないのか。もどかしい。



『なあ、日向ちゃん』
「っ、?」
『俺から言えることは、あんまないんやけどな、』
「蔵ノ介くん…?」
『うーん、せやなぁ…』



白石はうーん、うーんと唸り出す。日向はポロポロ溢れていた涙をグシャグシャと拭くと、彼の言葉に耳を澄ます。









『頑張れ。絶対に出来る』



スッと涙が頬をまた流れた。ただそれだけの言葉だった。それでも嬉しかった。ただそれだけの彼からの言葉が。



「…ありがとう」
『俺は日向ちゃんがだーい好きやで!』
「うん、私も…」
『えっ、ほんまに!?えっ、あ…『白石部長、誰と電話してるんスか』げっ、財前…』
『日向さん。財前です。俺の方が何倍も好きです。愛してますから早く嫁に来て下さい』
『財前んんんん!!!』
『日向ちゃ〜ん!またお話しましょうね〜!』
『小春〜!!俺も俺も!』
『ワイも姉ちゃんと話したい〜!!』
『いたたたたた!!?金ちゃん暴れんなや!!スピードスター…ごふ!』
『日向ちゃんおると?また話したいっちゃね』
『日向はん迷惑かけてすまんな』
『俺喋ってな』
『あ〜!!みんなうるさい!俺が電話しとったんやで!』


電話の向こうにはワイワイギャイギャイと騒がしい。でも、それが彼女にとって、楽しくて、とても心地がよい。やっぱり大阪の彼らはいつでも明るかった。





「みんな、ありがとう」




(私、頑張るね)


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