幸村と話さない日が何日も続いた。毎日毎日会いにクラスまで来ていた彼はまた今日もいない。流石に可笑しいと周りも感じていた。


「日向ちゃん、大丈夫なんか?」
「…急にどうしたの?仁王くん」
「幸村くんと何かあったのか?流石に可笑しいだろぃ、」
「丸井くんまで…、何でもないよ」
「喧嘩とかしたんスか…?」
「切原くん、」


クラスメートの仁王と丸井、いつも会いに来る切原の寂しいそうに悲しそうに彼女を見つめる3人の瞳に思いを吐き出しそうになった。


私、いじめられているの。


そんなこと口が裂けても言えるわけない。そんなのまるで、助けてもらおうと期待している弱い人間じゃないか。それに言ったところでどうなる?彼らが出てきたら、きっと余計に拗れてしまうに決まっている。

開きかけた口をゆっくりと閉じた。


「ちょっといろいろあって…。でも大丈夫だよ」


ありがとうと言うと、彼らは困ったように顔を歪め、歯切れの悪い返事をした。日向はそんな彼らに気付いていたが、知らないフリをしたのだ。

騒がしい教室は日向にとって、とても静かに感じた。騒がしく、静かな空間にガラリとドアが開く。目を向けると、彼女の友人が立っており、彼女の名前を優しく呼んだ。



「日向…、ちょっといい?」



日向は頷くと、彼女たちの後ろを重い足取りでついていった。














「多分、何で呼ばれたのかは分かってると思う」
「…うん」


柴崎が悲しそうに笑う。呼ばれた理由は勿論分かっている。彼女たちが日向がいじめを受けていて気が付かないわけがない。でも何も言わない彼女に何もしてあげられないことが辛いのだ。


「話して、くれる?」


柴崎は強い瞳で真っ直ぐ彼女を見つめてそう言ったのだ。吉田は黙ったままであった。下を向いて、目を合わせてくれない。当たり前か、と日向は目を伏せる。



「…私、いじめられている。誰かは分からないけど、ここしばらくは、教科書や上履きを隠されたり、ノートの間にカッターの刃を入れられたり…、小さなことだったけど段々大きくなっちゃって…、」
「そっか…、犯人は目星くらいはあるの?」
「多分、テニス部が関係していると思う。でも、それだけ」


ぎゅっとスカートを握り締める日向を優しく撫でる柴崎。それに対して、吉田はやはり話さないままだった。ワナワナと震えている吉田だったが、バッと突然顔を上げると一気に日向の肩を掴み、問い詰めた。その顔には少し涙。


「何でっ…」
「さつきちゃん…?」
「何で言ってくれなかったの!!バカアホマヌケ!!」


てっきり呆れられて友達を止めるなんて言われてしまうのではと思っていた日向にとって、泣き喚き、それでもぎゅうぎゅう抱き締めてくる吉田に何がなんだか分からなくなった。ただ1つだけ分かるのは吉田が泣いていること。


「ごめん…っ、ごめんね、」


震える声を振り絞って、日向は吉田の背中をぎゅっと抱き締めた。最初は大きな声でバカバカと言っていた吉田は日向の手が触れると徐々に声が小さくなっていく。柴崎はそんな2人を温かく見守っていた。


しばらくして落ち着きを取り戻した彼女たちはゆっくりと話を進める。いじめについて、これからどうするのかについて。



「テニス部の皆には言わないでほしいの。絢音ちゃんとさつきちゃんも何もしなくても大丈夫」
「日向!ちょっと待っ、」
「違うの…!」


誰にも何もしてほしくないと願う日向に吉田は反論を唱えるがそれは彼女によって遮られてしまう。声をあげる日向は珍しく、思わず言葉をつまらせてしまった。何か考えがあるらしいと柴崎が吉田を座らせる。


「ねぇ日向…、もしかしてテニス部の人達と離れる気?」
「そんなの可笑しいよ!いくらいじめてる奴らが離れろって言ったって言うこと聞く必要ないんだよ!?」


いじめているのは確かにテニス部のファンだ。彼女に嫌がらせをするのは離れてほしいからなんて分かっていることだ。彼女らの目的は日向をテニス部から遠ざけることだ。テニス部に言わないということはまさか離れる気なのか。柴崎と吉田はそんなの許さないと怒り奮ったが日向はそれを止める。



「離れる気はないよ」



強い凛とした声で確かに彼女はそう言った。離れる気なんて更々ないといった目だ。



「一緒にいたい。彼らと同じ高さに立って、隣を歩きたい。だから1人で立ち向かうの。彼らに助けてもらったら、私は今の位置から変わらないままで、どんどん置いてかれちゃうよ…、」
「日向…」
「私っ、強くなりたい。1人でいいやって今までは思ってたけど、どうしてもテニス部のみんなは諦められなかったの…、絢音ちゃんとさつきちゃんのことも…!だから私…!離れたくなんかないよぉ…!!」


大きな瞳から雫がボロボロと落ちてくる。日向が初めて大声で泣いた。わんわんと情けないくらい声を出すと、驚いてはいたが柴崎はポンポンと頭を撫で、吉田はまたぎゅっと抱き締める。



「仕方ないわね。でも危ないと思ったら流石に言うことは聞かないわよ」
「手伝うことあったら言ってよね!犯人探しくらいならやってもいいでしょ?ね!」
「絢音ちゃん、さつきちゃん…、」


笑ってくれる2人に日向はどれほど助けられたか。やっぱり2人は大切で諦められない存在だ。大好きで大好きで、一緒にいたくて笑いたくて。



「ありがとう…、大好き、」
「バカね。私の方が大好きに決まってるでしょ?」
「何言ってんの!私のが大好きだし〜!」



2人がいるから頑張れる。
強くなるよ。同じ高さでいたいから。もう後ろで背中を見ているのは嫌なんだ。







(あっ…、でももしかしたら2人に何か頼んじゃうことがあるかもしれないけど、その時は大丈夫、かな…)
(当たり前よ。むしろ言いなさい)
(よっしゃ。私頑張っちゃうよ〜!)



日向が笑うと2人も笑った。いつもの彼女の笑顔に戻ったようだった。




(君の笑顔には、)
(私たちだってね、
助けられていること知ってる?)





友達のターン!


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