「…説明をしてもらえるか」
柳がジャッカルに笑いかける日向にそう尋ねる。真田も気になっていたのだろう、日向をじっと見て、まるで説明を頼むと言っているかのような目をしていた。
彼女は目を伏せ考えていたが、ゆっくりと口を開く。
「…信じがたいかもしれませんが、簡単に言いますと先ほど見たものはこの世のものでない者。つまり幽霊」
ふざけているわけではない。彼女の目は本気だ。冗談でも嘘でもない。
「…いや、見てしまったからには信じるも信じないもなかろう」
真田は腕を組み、納得したように頷く。百聞は一見にしかずとはこういうことだと思う。
「それがテニス部にいて、怪我人が出るのも、欠席者が出るのも、原因はこれ。…ということで合っているか?」
「そういうことになります。でも早めに対処できたので良かったです…」
ホッと胸を撫で下ろす日向の言動に、遅かったら危なかったのかと内心ぞっとする2人だったがそれは黙っておいたらしい。
「テニス部は、みんなの憧れです。だから、きっと集まりやすい、と思います」
彼女は眉を下げ、悲しいのか辛いのかよく分からない表情をする。ゆらゆらする瞳は相変わらず読めない。
「私は、家柄がこういうこと専門で…だから私も祓えたりして…っ気持ち悪いですよね」
ハの字になる眉は笑っているのに泣いてしまいそうで、胸がきゅっと苦しくなる感じがした。片目しか見えない瞳から涙が零れそうでハラハラする。彼女はまるで怯えいるみたいだった。
「何を言っておる。お前は我がテニス部を救ってくれたのだ。そのようなこと、思うはずがなかろう」
「俺も同じ意見だ。それだけで判断してしまうほど、この柳連二、落ちぶれてはいない」
日向は顔を上げて、2人を見た。真っ直ぐな瞳は本物で偽りのない言葉だと他人から見ても分かる。
「ありがとうございます…」
ちゃんと信じることは出来ないが、日向は少し嬉しそうだった。彼女が初対面を相手にここまで話すのは初めてである。
「ところで陰野、見たところ人、というものが苦手そうだが、何故ジャッカルと仲が良いんだ?」
ノートを構え、柳は早速だが疑問をぶつけてみる。
人が苦手と判断する柳の洞察力はかなり優れているようだ。データマンは侮れない。
「あぁ。俺、憑かれやすいみたいでな…同じクラスになった陰野が見かねて助けてくれたってわけ」
「なるほど」
カリカリ、柳がノートにメモをする。
「ジャッカルのことは大変信用しているようだが」
「た、大切な…友達ですから。私のことも分け隔てなく、ずっとずっと接してくれた、友達」
勿論、初めから信用をしていたわけではない。ジャッカルが何回も話し掛けてくれる内に、心を開いたらしい。
「俺達もお前が信用できると思える人間になれるのか?」
「え、?」
柳の言うことが、日向にはよく分からなかった。
何故、自分と?
「俺はお前に興味を持った、だけでは理由にならないか?他の女とお前は何か違う」
心を読まれたように言葉にする柳に彼女は唖然とするばかり。真田を見て、助け舟を求めてみるも、
「うむ。是非友になってほしいな。無論、助けてくれたことだけが理由ではないぞ」
無駄であった。
彼は柳と同じ目をしていた。いや、真田はただ純粋に彼女のような人間を放っておけないだけなのかもしれないが。
「あ、りがとうございます…」
日向にはこれが精一杯であった。
それを分かっているのだろう、真田と柳は満足そうにクールな表情を緩める。
2人に見つめられ恥ずかしそうに俯いてしまう彼女。
しかし何かを思い出した日向は突然考えるように深刻な顔となる。それはそれは分かりやすいくらい顔に現れるものだ。
「どうかしたのか?」
「い、いえ…ちょっと可笑しいことがあって…」
真田でさえ気が付いた彼女の表情は難しいものであった。
「可笑しいこととは?」
「それは―…」
柳の言葉に答えようと日向は振り絞って声を発した。
が、その時
バンッと部室の扉が開かれた。
入ってきたのは絶大な人気を誇っているテニス部レギュラー。