昼休み。柴崎は用があるらしく、今隣にいない。何度もテニス部の人達といなさいと注意された。仁王や丸井は勿論のこと了承。そして、今彼女の隣には仁王、丸井、そして遊びに来た切原がいた。


「俺、テストで半分以上とれたんですよ〜!ねぇねぇ先輩、偉い?」
「すごいねぇ、切原くん。うん、偉い偉い」
「えへへ!じゃあご褒美として頭撫でて下さい!」
「ん?よしよし」


何だこの甘い空気は。切原は尻尾をふりふりと振る犬のように見えた。彼のくるくるした頭を撫でる日向の顔は母性に溢れておる優しい顔である。痺れを切らした先輩2人は切原を彼女からバッと引き裂く。



「ちょっ…!何するんですか〜!」
「うっせぇ!いつまでくっついてんだよ!」
「何でわざわざクラスまでくるんじゃ!帰れ帰れ!」
「えぇ!ひでぇ!」


昼休みに切原が来るのは日常茶飯事である。そのたびに仁王と丸井がぎゃいぎゃいと文句を言うのはお馴染みの光景であって、初めてではない。

でも少し雰囲気が違うように感じた。それはやはり日向の足元、上履きがないことが原因らしい。切原はそれに気が付いている。だからこそなのか、触れなかった。触れてはならないと感じたからだ。


「先輩もよしよ〜し」
「…えぇ、なぁに切原くん」
「えっと〜…何となくッス」


切原の手は意外とゴツゴツしており、男の手であった。彼女のサラサラした髪を乱雑にかき混ぜる。彼なりに懸命に励まそうとしているのが見え見えだが、それでも嬉しかった。
丸井や仁王までもワシャワシャとするもので、髪が少しぐちゃぐちゃになってしまったのは見なかったことにする。





「日向さん、少しお時間よろしいで…、貴方たち何をしているんですか」
「柳生…、何でおるんじゃ」
「柳先輩までぇ…」
「俺はそこで柳生に会っただけだ」


柳生と柳が入ってくると、3人はげっと顔をしかめる。柳生はどうやら彼女に用があるらしく、柳はたまたま鉢合わせをしたわけで一緒についてきたということらしい。


「柳生くん、あの、私に用って…?」
「あ、いえ…、これを届けに来まして」
「あっ…教科書、」


日向の名前が書かれた教科書は焼却炉の付近に落ちていたのだが、それは決して柳生は口にはしなかった。口になど出来るはずもない。口に出来ないもどかしさを隠すため、彼女の乱れた髪を優しい手つきで直す。


「わっ、柳生くん…?」
「す、すみません。髪が少し乱れておりましたので…!」
「わー柳生のムッツリ」
「に、仁王くん貴方ね!」


柳生は顔を真っ赤にしてぷりぷりと仁王を叱る。ねちねちと始まる説教は長い。それはとても。仁王はべっと舌を出し、助けを求めるがやはり誰も助ける気はないらしい。


「何があったとは聞かないでおくぞ」
「…柳くんなら何でも分かってそうな気がするなぁ」
「ふっ…、まぁ気にするな」
「えっ、わわ」


柳が頭を撫でるのはいつものことだ。綺麗な彼の指はしなやかに髪をするする通る。これを皆に言ったら怒られるが、彼のこれが一番気持ちがよい。


「先輩いつまで撫でてるんですか!さっきまで俺がやってたのに〜!」
「柳はいっつもいいとこどりだろぃ?ズリィ!!」


騒がしい彼らに囲まれた柳は最後に1つ彼女の頬を撫でると、名残惜しそうに手を離した。少しだけ温かくなった空間に彼女は感謝する。うじうじしてなどいたくない。弱い自分は嫌だ。そう願う。



しかし、教科書を開いた瞬間にとてつもない恐怖が体を駆け巡る。電力が流れたかのように動けない。皆もそんな日向に気が付いたのか、くるりとそちらを向いた。彼女の息を飲む音だけが鮮明に聞こえた。


「あの…、柳生くん」
「何でしょう…?」
「これ、中見た…?」


その瞳は何かに怯えているみたいで思わずこちらも息を飲んだ。ピンク色の唇が微かに色を無くしてしまっている。まだ暑いのに急に気温でも下がったかのよう。


「…見てませんよ。名前は外側に書いてありましたので、」
「そ、そっか…」
「先輩?どうしました?」
「顔色悪いぜ?大丈夫かよ」
「えっ…?う、うん。大丈夫だよ」


切原と丸井はおろおろと酷く心配していたが、日向はにこりと笑顔で対応する。何も悟らせないように、笑うが鋭い彼らは何となく引っかかる。
柳、柳生、仁王は互いに顔を見合わせる。小さく震える彼女の手を見つめ、険しく端麗な表情を変えた。それでも強く強く生きたいと願う彼女を見て、何も問いただすことは出来ない。






(ただ、)
(泣きそうな彼女の顔が頭から離れない)




お願い。誰にも知られたくないの。


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