「日向、髪だいぶ伸びたわね」


ジュルルと紙パックのジュースを両手で持ち、啜る日向を見て友人である柴崎は唐突にそう呟いた。胸元あたりまでの彼女の髪がサラリと揺れる。


「そうかなぁ…?」
「うんうん。可愛いわよ」


弄ってもいい?と彼女の髪の束を掴む。勿論と答える日向だが気になることがあった。「さつきちゃんは?」ともう1人の友人のことを柴崎に尋ねる。回答は簡単で小テストの追試を受けているらしい。


「バカよね。勉強しないで寝てるからよ」
「そ、そんなことないよ…」
「そのおかげで私は日向と2人っきり〜。呼び出しなんて本当にバカ…」
「柴崎〜、生徒指導室まで来なさい」


固まる柴崎を日向は心配そうに見つめる。優しい年配の先生に呼ばれた柴崎はちっと小さく舌打ちして席を立つ。名残惜しそうに日向の髪の毛を離す姿は見ていられないほどの何とも言えない形相だった。


「あ、絢音ちゃん…」
「ん?ああ、持ち物検査にちょっと引っ掛かっただけよ。まあ行ってくるから隣にいる相手してほしそうな人達の相手してあげてなさい」


反省した様子もなくダラダラと教師に着いていく柴崎の言葉に日向は「えっ」と不思議そうに首を傾げた。そして、隣に目を向ける。


彼女が目を向けるとキラキラと嬉しそうに瞳を輝かせるのは言わずとも分かる仁王と丸井。そして何故だか切原。意外と可愛らしかった。



「日向ちゃんの髪、弄りたいぜよ!」
「俺なら天才的に可愛く出来るぜ!」
「えぇ!俺だってやりたいッス!」


3人がギャーギャーと騒ぐもので、日向は困ったように笑う。誰でもいいよと彼女が言うと、3人はじゃんけんをし始める。なかなか決まらなかったが流石はペテン師と言うべきか、仁王が勝った。


「どんな髪型がええかの〜。何でも似合うきに迷うぜよ」
「やっぱりツインテールじゃね?ぜってぇ似合う!」
「ポニーテールも見てみたいッス!!あっ、みつあみとかもいいな〜」
「2番目に勝ったのブンちゃんじゃし、ツインテールにでもするかの」


自分より盛り上がっている3人に日向は苦笑い。ツインテールに決まったらしく、仁王が器用に彼女の髪を仕上げていく。丸井と切原は興味津々にそれを観察。あまり見られすぎて、日向はちょっと恥ずかしそうに俯く。



「ほい完成」
「「おお〜!!」」



仁王はやはり器用で、ツインテールの髪を逆立てて、ふわふわにしたりとアレンジを効かせていた。高すぎない、ちょうど良い位置。ちょいちょいと前髪も直してくれて、本当に器用だなぁと日向は感じる。


「めっちゃ可愛いじゃん!写メろ写メろ!!ハイッ!天才的ィ!」
「えぇ!俺も写メりたい!先輩めっちゃ似合ってますよ!」
「コラ赤也。抱きつくんじゃなか!髪が崩れちゃうじゃろ!」


可愛い可愛いと言われるもので写真を撮られまくる。ぎゅむっと切原が抱きつくのを仁王が防いだり、丸井は丸井で密着して写真を撮ったりと何が何だか分からない。


「あ、あの…、恥ずかしいからほどいちゃダメかな…?」
「ダメッスよ〜!!せっかく可愛いんですから今日はそのままがいいッス!」
「でもよ、このままだったら他のテニス部の奴らに見られちまうんじゃね…?」
「…確かに。幸村とか参謀とかに見られたら厄介じゃのぅ」


切原が嫌々と駄々こねる中、ヒソヒソと丸井、仁王は何か話し合う。切原と戯れている日向は聞こえていないらしく、ほどかないでと言われ、えぇと困っていた。



「よし。ほどくか!」
「え、何でッスか!?」
「ええからええから」
「仁王先輩まで〜!!」
「るっせぇよ赤也!」
「そうじゃそうじゃ。このままじゃ幸村や参謀に、 」



「俺が何?」



「「「……」」」



まるで怖いものでも見たかのように3人はカチンと固まってしまう。一方、ニコニコと笑っているのが我らが神の子、幸村精市。揺れるツインテールを見ると、さらにニコリと笑う。


「へぇ、ツインテールかぁ。似合ってるよ」
「あ、ありがとう」
「(ほれ見ろ。来ちまったじゃろ。赤也のせいじゃ!)」
「(お、俺ッスか!?理不尽ッスよ!)」
「(バッカ。仁王だって幸村くんの名前出せば来るに決まってんだろ!)」
「聞こえてるからね」


幸村の恐ろしさを知り、3人はヒィと縮こまる。今日の練習メニューはきっと何倍にも増すことだろう。可哀想に。


「昔に比べてだいぶ伸びたね〜。どっちも似合ってたけど」
「日向先輩、髪短かったんですか?」
「うん。今よりは少し」
「へぇ!見てみたいな!」


そう丸井が言うと幸村は携帯を弄り始める。恐らく写真があるのだろう。期待に満ちた眼差しで待つ3人はまるで待てを指示された犬みたいだった。


「あ、あった」


ほれと携帯の画像を見せると少し幼いであろう日向がいた。確かに髪が少し短くて、それはそれで可愛かった。食い入るように見る3人とは対象に彼女は驚いて赤くなっている。


「えっ、い、いつこれ撮ったの!?」
「内緒〜」
「幸村くん…!」
「いいじゃないか。可愛いんださら。あ、その髪型も撮らせてね」


幸村は相変わらずマイペースだなぁと思う。日向が恥ずかしそうにツインテールを掴む姿は、可愛らしい。あまり長くない髪も縛ると長く見える。不思議だ。


「明日も違う髪型にしてよ」
「任せるぜよ。可愛くしちゃる!」
「おお、写真増えるな!やったぜ!」
「わーい!先輩いっぱい撮りましょうね!」
「可哀想だから他の部員も呼んであげようか」



彼女の意見はどうやら聞くつもりはないらしいが、彼らが楽しそうなので何も言うことが出来ないのであった。

ツインテールもポニーテールもきっと似合うって言ってくれるのがテニス部である。優しいなぁと思う彼女はつくづく鈍感だ。






日常生活も書くと楽しい。
何も思い付かない。大阪編終わったのに大阪しか思い付かない。笑


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