朝から今の今まで日向は大変であった。物凄くと言っても過言ではないくらい。

まずあの朝のテニス部との強烈な再会。そして教室に戻れば、彼女の友人2人に感動のハグをされたり、質問攻めにされたりと大忙し。休み時間にはクラスの丸井や仁王に、 他のクラスや学年の幸村や切原までもやって来る。嬉しいのは確かだが、あまりの大変さに、少し頭がクラクラした。


休む場所はないかと彼女が訪れたのは、図書室であった。意外と穴場である図書室は人がいなかった。静かな空間と独特の本の香りが鼻を掠める。

適当なところに座った日向はそれと同時に瞼がどっと重くなったのを感じ。やがてはその瞳をゆっくりと閉じ、スースーと寝息をたてて眠ってしまった。




「ふむ。図書室に来る確率は23%だったのだか…」



声が聞こえた。そして何故か温かくなっている肩に重い瞼は開けることが出来ず、ぼんやり再び眠りに落ちる。


何分くらい寝たのだろうか、彼女はゆっくりゆっくり瞳を開けた。虚ろ虚ろと意識があまりはっきりしなかったのだが、隣にいる人物を見て、一気に目が覚める。



「ん?起きたのか」
「えっ!?や、柳くん…!」



カバッと起き上がると柳がそこにはいた。本を片手に彼女の隣に座っていたようだ。驚いた彼女は何か言いかけたが、それより肩に乗っている芥子色のジャージに目がいった。


「あっ…、ジャージ…!ご、ごめんね…、ありがとう」
「気にするな。俺が勝手にしたことだ」
「お、お見苦しいところをお見せしちゃって…」
「ふっ…いや、なかなか可愛らしかったぞ」


また寝癖がついていた髪を直され、彼女は頬を赤く染め、顔を伏せた。


「あれだけ精市達の相手をしていれば疲れるだろう。仕方のないことだ」
「ううん…!嬉しかったから、いいの」
「お前がいなくてあいつらは寂しかったみたいだ。勿論、俺も含めて。…だから、たまには許してくれ」


柳の美しい指先が彼女の髪を頬をやんわりと撫で続ける。不思議そうに、でも恥ずかしそうに柳を見つめる。
いつもはうるさい3人組や幸村を宥めたり、遠くから見守っていた。しかし本当は同じように彼女を大切に思っているのやもしれない。


「すまないな。驚いたか?」
「えっ…?ええと、少し…」

「おや?柳くんと…!日向さん!」


声に少しびっくりしたが、すぐに誰か分かりホッとする。「この時間に図書室に柳生が来る確率は高い」と柳は考えていたらしく、良いタイミングで手を止めたらしい。入ってきたのは柳生であり、本を持っていたことから返却しにきたみたいだ。


「お二人も本の返却ですか?」
「その、お恥ずかしながら…私は眠ってしまって…」
「そうでしたか…、あれだけ仁王くん達の相手をしていらしたので、さぞお疲れでしょう。ご迷惑をおかけしました…」
「もう少し早ければ日向の寝顔が見られたぞ」
「や、柳くん…!そ、そのようなことを決して考えていたわけでは…!」


コホンと咳払いを1つした柳生は落ち着きを戻し、本を返却口へと入れる。日向は柳のジャージを握りながらも、寝癖をちょいちょいと直す。柳も直してくれるもので、恥ずかしさが増した。でも柳生の前ではビシッとしなきゃと言う変な考えがある。柳生もビシッとしているからだろうか。


「本当にいつもご迷惑をおかけして申し訳ありません…、」
「全然そんなことないよ…!それにね、あんなに素敵なお迎えしてくれて嬉しかった」
「皆さん寂しかったみたいです。仁王くん達だけじゃない、真田くんや、柳くん、貴方もですよね」
「…柳生。うるさいぞ」
「ふふ。…あと、ええと、その…、私もです…」


赤くなる柳生は下を向いて顔を隠してしまう。少し下がった眼鏡の隙間から、柳生の綺麗な瞳が覗いた。初めて見た彼の瞳はスッとしたものだったが、動揺で泳いでいる。どこか大人っぽい柳生が同じ高さにいるようで、日向はクスクスと笑いを漏らす。


「柳生くん」


日向は柳生の手をキュッと握る。すると柳生は人形のようにカチコチに固まってしまい、先ほどより更に真っ赤になってしまった。


「こんなに温かい気持ちは初めてで、どうしたらいいか分からないけど…、えっとね、いつも、いつも本当にありがとう。上手く言葉に出来ないけど、」


えへへと笑う彼女は愛らしい。柳生はもっともっと赤くなってしまい、慌てて眼鏡を直す。読めない表情の柳を「柳くんも」と日向は手を握り、ふわりと微笑んだ。冷静な2人とて流石に調子が狂ってしまう。



「本当にありがとうがいっぱいで何から伝えたらいいか分からないよ」



純粋な彼女らしい言葉に2人は顔を見合わせて、にこりと笑った。(本当に彼女と言う人間は…タラシだ)と、苦笑い。




幸村にだけはバレたくないと心がシンクロしたのは言うまでもなかろう。






柳さんと柳生さんが書きたかっただけです。真田、ジャッカル、すまん。


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