久しぶりに立海の制服に腕を通したような感覚がした。冬服からはおさらばし、今は夏のワンピースタイプの制服だ。大阪から帰ってきた日向は久々の学校に少しドキドキしていた。そこまで長く公欠をとったわけではないのだが、こうも長く休んだ気がするのは何故だろう。

いや、早く教室に行こう。そう思った彼女だが、あまりに早く学校に着きすぎてしまった。どうしようかと考えていた日向は結局のところ、足の向くままの方に辿り着く。




「屋上…」


進んだ方向は屋上だった。綺麗に咲き誇る花。屋上庭園に来てしまった。ぽけっと花を見る。いつ見ても、美しく咲いている。


「…幸村くんが育ててるもんね。綺麗に決まってるよ」


花を見て、育てている幸村精市を思い浮かべる。彼に、いや、彼以外にもだが、たった1週間程会っていなくても、変な気分がした。何だかそれが可笑しくて、クスクスと笑い声が漏れた。


そんなまったりしている中、屋上の扉がバン!!と凄まじい音をたて、開いた。
振り向いた彼女は誰かを確認する暇などなく、目の前には銀色、赤色、黒色がいっぱいに広がる。



「えっ…!仁王くん、丸井くん、切原くん…?」


彼女をぎゅうと抱き締めるのは紛れもない仁王、丸井、切原であった。互いに互いを押し、邪魔しつつも、彼女を抱き締める手は緩めない。


「日向ちゃん…!何で学校来んかったん…?俺っ、寂しかった!!もしかしたら俺の隣が嫌なんかなって思ったら…、うぅぅぅぅ…!!」
「に、仁王くんっ…、違うよ!私は、」
「俺っ、日向のお菓子とか勝手に食ったりして悪かった!!だから学校来てくれよー!もうしないから…!!」
「えっ…丸井くんが食べてたんだ…」
「先ぱぁぁぁい!!俺、先輩に会えなくて寂しくて死んじゃいそうでした…!何で学校来ないんですかぁぁぁ!」
「あ、あのね…!だから、」


何を言っても聞く耳を持たないこの3人。違うんだよと彼女が何度言ってもわんわんと泣き喚き、ぎゅうぎゅうと抱きつくばかり。日向は困り果てたようにオロオロし出し、終いにはもらい泣きしていた。何故か、ごめんなさい〜っと謝る。



「ハイハイ。そこの馬鹿3人は日向から離れようね。よろしく保護者達」
「精市。俺達は保護者ではないぞ。そして赤也は離れろ」


ベリベリと剥がされていく3人。流石幸村と言うか、有無を言わさない笑みを浮かべ、彼らを離れさせた。保護者と言うのは、柳、柳生、ジャッカルのことを言うらしい。


「仁王くん、離れたまえ。申し訳ありません日向さん…、困らせた上に涙を流させてしまって…、さぁ、ハンカチです」
「う、わぁ…!わざわざすみません…、ついもらい泣きしちゃって…」
「ブン太も離れろよ。日向、困ってるだろ?悪いな、日向」
「う、ううん!大丈夫だよ」


彼らのパートナー(と言う名の保護者達)は慣れたような様子で彼らを引き剥がす。イヤイヤと駄々をこねる3人を意図も簡単に引き剥がすとは流石だ。
ちなみに真田は幸村から謎の八つ当たりを受けていた。相変わらず不憫である。



「はーい。じゃあ次は俺の番だね」



幸村は真田を苛め終わった後、彼女の元にやって来て、優しくその体を抱き寄せる。日向は幸村の香りに何となく懐かしさを覚え、ひいた涙が出てきそうになった。


「お帰りなさい。日向がいなくて寂しかったんだから、これくらいは許してよね」


幸村のウェーブのかかった髪が顔をすくめ、くすぐったくて目をぎゅむっと閉じる。こうも美少年と密着しているのに、ドキドキしないのはやはり慣れてしまったからだろう。


「大阪は楽しかった?」
「…うん。すごく」
「そう…。会いたい人には会えたかい?」
「…会えたよ。優しくて、面白い人達とね、たくさんお話して、お友達になれたよ」


不思議な会話だが、いつも幸村と日向がする会話だ。こうして幸村が彼女の近況を聞くことがよくある。大切だからこそ、可愛いからこそ、過保護になってしまう。


「ふふ、良かったね」
「幸村部長!部長だけズルいッスよー!!俺も!俺も!」
「あっ!赤也てめぇっ!抜け駆けすんなよ!」
「あっ…!赤也もブンちゃんもズルいナリ!」
「わっ…!みんなっ、ちょっ、まっ…!」


一気に覆い被さるように迫る3人に日向の細い体は支えることが出来ない。地面に座り込んでしまったが、それでもこんな風に心配してくれたり、形は違うけども、微笑みながら見守ってくれる、そんな人達がいることに嬉しく思い、綻んだように笑う。



それと同時に瞼には雫がどっぷり溜まったような気がした。





(四天宝寺も温かいけと、)

(立海も同じくらい温かい)


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