足をつけるとそこは見慣れた場所。日向は大阪から戻ってきた。少し大きめの鞄を抱える彼女は、キョロキョロと誰かを探している様子である。



「日向!」



ハッキリとした声で名を呼ぶそれに気が付いた彼女は嬉しそうに駆けていく。ちょこちょこと駆け寄る姿は小動物のように可愛らしく、呼んだ人物は少し微笑んだ。


「わざわざ迎えに来てくれなくても大丈夫なのに…、ありがとう、景吾くん」


跡部はシュンとする彼女を撫でると、アイスブルーの瞳を綺麗に細めた。


「前も言っただろ?俺は自分がしたくてしてるんだ。それとも何だ、俺様のエスコートじゃあ不満なのか?」
「…ありがとう。景吾くんのエスコートがいいです」
「上出来だ。あぁ、そうだ。言っておくが俺様だけじゃねぇぞ。エスコートするのは」


跡部の言葉に彼女は不思議そうに首を傾げる。一方の跡部は溜め息を吐き、いかにも不本意と言った感じだろうか。


「あの、それってどういう…?」
「日向ちゃ〜ん!」
「えっ…、きゃっ!?」


突然後ろから勢いよく飛び付く何者かに彼女はその衝撃に耐えられず、よろめく。結局のところ、前から跡部が支えてくれたのだが。


「マジマジ!久しぶりだC〜!」
「芥川くん…!わあ、久しぶりだね!」


芥川が彼女を後ろからガバッと抱き締める。驚いた彼女だが、芥川のふにゃふにゃした笑顔につられて、つい笑う。よほど会えたのが嬉しいのか芥川はぎゅうぎゅう強く抱き締め離さない。日向は嬉しそうでいいのだが、跡部はあまり良く思っていないようで、芥川を彼女から離し、力強く引っ張った。


「わあ!?ちょっと跡部〜、痛いC〜!ヤキモチ?」
「うるさい。お前はくっつきすぎだ!」
「嫉妬は見苦しいぞ!って昔言ったの跡部じゃん!」
「なっ、ジロー…てめぇ!」


ギャアギャアと可愛らしい喧嘩が彼女の前で行われる。荷物を持ちながら、ポカンとしている日向はどうしようかと考えていた。

すると、荷物を持っていた手からは急に重力がなくなった。荷物を誰かが持ってくれていることに気付くのに少しだけ時間がかかってしまう。日向はゆっくりと後ろを向いた。



「全く…、何やってるんだ。あの人達は」
「えっ…!ひ、日吉くん!」


振り向くと相変わらずと言っていいのか、仏頂面をした日吉が彼女の荷物を持って立っていた。未だに言い合いをしている跡部と芥川を冷ややかな目で見つめ、はぁと大きな溜め息を吐く。


「あの人達は放っておいて行きますよ」
「あっ、荷物…」
「いいですよ。危なっかしいですし」
「で、でも…!?」


言いかけた瞬間、彼女の足は縺れ、大きく体が揺れる。流石と言うべきか、日吉は日向の肩ごと前方からしっかり抱き止める。ふわりと彼女の香りが顔を掠め、ドキリと胸が鳴った。柔らかい体に手が少しだけ震える。


「あ…、ありがとう。日吉くん」
「…っ、いえ。だから言ったじゃないですか。荷物は俺が持ちますからね」


うっと言葉を詰まらせた彼女は可愛らしく唇を尖らせて、日吉を見つめる。耳が赤く染まる日吉はそんなところを見せたくなくて、彼女の顔を手で覆ってやる。びっくりはしていたが、やがて日向は可笑しくなったのか、クスクス笑い始める。日吉もつられてか、表情をやんわりと柔らかくした。



「おい日吉!俺様を差し置いて日向に触ってんじゃねぇぞ。アーン?」
「は?何言ってるのか分かりませんね」
「俺もぎゅーしたいC!」


言い合いを中断したらしい、跡部と芥川は日向を抱き抱えている日吉にすぐさま文句を言いに行く。彼女は助けてくれたのだと何度も言ったが、まるで聞く耳を持たない。


「フンッ…、行くぞ日向」
「えっ、あっ…、」


グイッと彼女の手を引き、自身の車に乗せる跡部。子供だ。
芥川は日吉にどんまいと声をかけていた。意外と周りが見れるのである。

日吉は盛大に息を吐き、跡部の車に乗り込むのであった。








(日吉くん。さっきはありがとう。景吾くんがごめんね…)
(いいですよ。日向さんが謝ることじゃありませんし)
(ふふ、優しいなぁ)
(…貴方だから、)
(日向ちゃんぎゅー!)
(わ、芥川くん)
(……)
(ジロー!!引っ付くなとさっきも言ったじゃねぇか!)
(しーらないっ )


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