「こんなところまで見送ってくれて、ありがとう」
まだ時間帯的にも早いのか、駅にはさほど人がいなかった。彼女は大阪から離れる。別れを惜しむかのように四天宝寺のメンバーは早いにもかかわらず、見送るために皆が集まっていた。
日向は寂しそうに眉を下げると、一同は笑わせようと場を盛り上げる。奇妙な光景だ。
「日向さんと離れるとか俺はもう生きている意味を見出だせません。大阪住んで下さい。あ、俺の嫁になって永久就職と言う素晴らしい案があった」
「こらこら財前くーん?そんなことこの俺が許しませんよ」
「何で部長の許可いるんすか?意味わかりません」
「日向ちゃんは俺のエクスタシーなお嫁さんになるんや!絶対やらん!」
「はぁ?別に部長のって決まってませんし、変な妄想止めて下さい気持ち悪い」
「財前んんんんん!!!」
何となく財前が押しているように感じる言い争いは置いておくことにしよう。それを微笑み見ている彼女はすごいなぁとつくづく感じた。
「あの2人はほっといて、また遊びに来てね〜!もっといっぱい日向ちゃんとお話したいわ〜!」
「小春が言うんやから絶対やで!俺もお前に色々頼みたいこととかあるんや!」
「あら、ユウくんってば何〜?うふふ、2人の秘密ってことかしら?」
「なっ…!べ、別にやましいことやないからな!?こ、小春ぅ!!」
金色が温かくしてくれたおかげで日向は楽しく大阪を過ごせた。まるで家族のような1つ1つの言葉にどれだけ助けられたことか。
一氏も初めはあんな感じだったが、今では小春と自分の間に彼女を入れてくれるくらい受け入れてくれた。たくさん笑わせてくれたことを忘れはしない。
「ワシが言えるのはただ1つや。楽しい時間を感謝や、日向はん」
「楽しかったとね。ほんま、むぞらしか子ばい」
「千歳は抱きつきすぎよ〜!蔵リンってばカンカン!」
銀とはあまり言葉はなかったものの、お互いにまったりした時間を過ごしていた。千歳はむぞらしか〜と毎度毎度彼女を抱き締めるので、よく白石に叱られていたが。
「姉ちゃん帰ってまうん…?イヤやー!ワイめっちゃ寂しい!!」
「金ちゃん、我が儘言うたらアカンで!しゃあないやん…」
「謙也やって、イヤそうな顔しとるくせに!!」
「そりゃあ、寂しいし、もっと一緒におりたいし…(ゴニョゴニョ)」
「?よお分からんけど、離れたないー!」
遠山はやはり彼女にとって大切な可愛い弟のような存在であった。慣れない環境でも一緒にいると安心するような。そんな感じ。
謙也は真っ赤になりながらも話しかけてくれる。そんな優しい彼を彼女も心から信頼出来た。おどおどする自分と同じような彼は可愛くて、少し可笑しかった。
「本当にすごくすごく楽しかった。楽しい時間をありがとう。私、幸せ者だなぁ、」
恥ずかしそうに頬を両手で覆い、へにゃりと笑う。可愛らしい彼女の行動に周りも嬉しそうだった。財前にいたっては日向を持ち帰る勢いであった。皆は彼女の手を握り、行ってほしくないなとばかりに力をこめる。
日向はむずかゆい変な気分になった。たった数日の間だけであったが、こんなに彼らと仲良くなれるとは思ってもいなかっただろう。まさか自分が明るく楽しい彼らの輪に少しでも入ることが出来たなんて。
「また、会えたら嬉しいな…、」
ポツリと誰にでもなく呟いた言葉。空へと放ったつもりであったそれは彼らの耳にはしっかり届いていたらしく、皆は口を揃えて言い放った。
『絶対に会えるで!!』
何か理由があるわけではないが、何となく彼らが言うと本当にそうなってしまいそうな気がして、日向は思わず顔を綻ばせた。
大阪に、さよならを。
(今度は私が案内するね。だからこっちにも来てほしいな)