白石の家に入った途端、日向はとても大変であった。

まずは兄である蔵ノ介と妹の友香里の日向争奪戦である。夕飯を食べるのにどちらが隣に座るか、テレビを見るのにどちらが隣か、風呂にはどちらが入るか(無論、友香里だが)、とにかく様々なことに関して彼女の取り合いだった。彼女は笑顔でその様子を見ていたが、傍観者側としては可哀想である。

最後に寝る場所はどうするかで喧嘩を始めた。いやしかし、兄の蔵ノ介は男だ。しかも彼女への感情が尋常ではない。
というわけて、友香里の圧勝に終わった。女はやはり強い。

友香里は上機嫌であった。風呂にも一緒に入ることが出来て、寝る権利までも手にした。風呂ではペタペタ彼女を触り、「日向ちゃんスベスベ〜!」「ん、くすぐったいよ…」とじゃれあっていた。外で兄は恨めしそうにしていたとか。

そして、今は友香里の部屋で寝る支度の最中であった。


「一緒のベットで寝ようや!日向ちゃん!」
「えぇ、でも友香里ちゃん狭くなっちゃうよ?」
「ええよええよ!」


友香里の押しがあまりに強かったもので、日向は遠慮がちに友香里のベットへと入る。すると友香里は嬉しそうに彼女へと飛び付いた。むぎゅりと彼女の胸に埋まる。


「えへへ、ほんま日向ちゃん来てくれて嬉しい!」
「ふふ、私も友香里ちゃんに会えて嬉しい」
「でもクーちゃん邪魔ばっかしてきて日向ちゃんと全ッ然話せへんかったし…!」
「そうかなぁ…、一緒にお話がしたかったんじゃない?」
「ちゃうよちゃうよ!あんな変態を庇うことないで!日向ちゃん!」
「あはは…、」


友香里は日向の香りを確かめるかのようにスリスリと彼女にすがる。変態と兄のことを言っていたが、変わらないのではと思うのは気のせいだろうか。


「…日向ちゃん大好きや。ほんまのお姉ちゃんみたい、で…」
「私も友香里ちゃん大好きだよ。お休みなさい」

興奮したせいか、友香里はゆっくり目を閉じ、すやすや寝息をたて、眠ってしまった。日向は眠る友香里を愛で、布団を掛けてやる。

下の様子が気になった日向はベットから降り、友香里を撫でると部屋から出た。下には白石家のお母さんお父さんがいて、日向は今日のお礼とお休みなさいと言う挨拶をする。彼らは優しくお休みなさいと言ってくれた。

上に上がり、部屋に戻ろうとした。すると、突然別の部屋が開いて、彼女は驚き止まってしまう。



「…日向ちゃん?」


それはやはり白石(兄)であった。日向は少し止まった後、彼に近付き、こくり頷く。


「そんな薄着あかんやろ?風邪引くで」
「あっ…ありがとう」


白石はふわっと上着を彼女の肩に掛けてやる。大きい上着だったが、日向は嬉しそうに笑った。白石も嬉しそうに笑顔を返す。


「良かったらちょっと話さへん?あんまゆっくり出来へんかったし」
「うん、いいよ」
「ほな俺の部屋いこか」


白石は彼女の背中をそっと押し、部屋へと招き入れる。白石の部屋は相変わらず綺麗で、シンプルだった。女の子である友香里とはやはり違うのかと日向は感心する。


「ああ、何か日向ちゃんが近くにおるの変な感じやな」
「そうだね。大阪はちょっぴり遠いかな」


互いにベットへと腰かける。白石は日向の頬をさらりと撫で、うっとり彼女を見つめた。瞳は優しく細められる。


「向こうは楽しい?」
「楽しいよ。お友達もいっぱい出来たの。とっても大好きなお友達だよ」
「それは良かったなぁ」
「あとね、私に居場所をくれた人達がいるの。優しくて、大切な。あっ、あとね幼なじみの子にも会えたんだ!それでね…」


日向はウキウキと話を続けた。白石はそれを聞きながら何処か寂しそうに眉を下げる。愛しそうに見つめる一方、寂しげに瞳を揺らす。あくまでも彼女にバレない程度に。

だが、日向は気付いた。


「蔵ノ介くん、どうしたの…?」
「ん?何や寂しくてな」
「えっ…?」
「日向ちゃんに友達いっぱい出来るんは嬉しいんやけど、離れていっちゃうみたいでな…、ははっ、あかんな、こんな我が儘」


白石はくしゃりと髪を掴み、ごめんなと日向に笑いかける。そんな悲しげに笑う彼を見ると、胸がきゅうと切なくなる。かつて幸村にも同じことを言われたことがある気がした。何だろう、この気持ちは。


「蔵ノ介くん…、私、遠くになんて行かないよ…?そんなに大きな人間じゃない、」
「ん、せやなぁ…、堪忍な。変なこと言って。寝よか」
「う、うん…?」
「はーい。お休み」


流されてるのは気のせいか。だが、先ほどまでの寂しい雰囲気は何となくだがなくなった。少しだけほんのりした。
しかし、ベットで何故か抱き締められて寝ていることに疑問を持つ。彼女は気にしていないようだが、白石は興奮気味に抱き締めていた。


「蔵ノ介くん」
「ん?」
「私、三日後には神奈川に戻るね」
「…さよか」


白石はその言葉を聞いて、ちょっとだけ強く彼女を抱き締めた。



日向は、神奈川に戻る。

大阪の彼らとはお別れだ。
神奈川の彼らは待っている。





大阪編はいったん終えます。


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