面食らい立ち尽くすライを、ニノは強引に抱き寄せて、耳元で甘言を囁いてきた。
面白くないのは、蚊帳の外に出された武闘家である。突然、ニノの襟首を掴み上げながら、迫力満点の顔を突きつけてくる。
「シカトしてんじゃねぇよ! ホモ野郎、てめぇら……気色悪いんだよ!!」
(ほ、ホモ!? 僕だって、一応……女)
武闘家の言葉に、ライの顔にも怒りが宿る。女に見えないのは承知だが、酒浸りの破落戸などに、中傷される謂われはない。
「可愛いちゃん相手に、ホモとか失礼じゃね? ホント脳筋って救いようねぇよな」
ニノは、「ねぇ?」とウィンクをしながら指を鳴らす。指先から、小さな火の粉が発生すると、武闘家の頭上に降り注いだ。
「ひっ……ひぎゃああぁっ!」
大袈裟な雄叫び、髪が燃えて悲惨だ。
「な、何したんだ? 今……」
呪文を唱えたわけではないのに、発動した火の粉。ニノは得意そうに笑っている。
「退散、たいさん!」
いきなり、ライの腰に腕を回し抱き寄せてくる。次の瞬間には、凄い勢いで走り出した。唐突過ぎる出来事に、ライは気圧されて、抗うことも忘れてしまうのだった。 |