睨んだのも束の間。ライの瞳からは、忽ち怒りが消えてゆく。魔法使いの容貌を前にして、ライは言葉も出せず息を飲んだ。
白み帯びた金髪は、絹のように艶やかで美しい。ライを驚かせたのはそれだけではない。右目は金色、左目は紺碧。珍しい左右違いの瞳を持つ、美貌の持ち主だった。
(凄く綺麗な人だ)
ジッと見つめ返してくる瞳。余りの美しさに、ライの胸は不覚にも高鳴っている。
十六年を生きてきてこれまで、ライは異性に関心を持った事など只の一度もない。 しかしながらこの男の美貌に対しては、どうもいままでとは違うようで。初めて胸に抱くトキメキに、激しい動揺を覚えた。
「……理由は訊いたけど、貴方も店内で呪文を放つとは少し非常識じゃないのか?」
だが、表向きは冷静を装うライ。その様子を見て、魔法使いが口角を吊り上げた。
「お、スゲェ可愛いっ。マジ好みだし!」
そう言った途端、魔法使いの表情が見る見る間に、性欲剥き出しのスケベ顔に変貌する。これには、ライも度肝を抜かれた。
よく見れば、品のない猫背。チンピラのような、がに股……口調は今時の若者のそれ。惜しい事に、低く嗄れた悪声である。
(……な、なんだ こいつ!)
「オレ、ニノ。この町、今日初めて来たんだ。案内ついでにデートしてくれね?」
……口調ばかりか、頭の程度も軽いようだ。どうやら良いのは“顔”だけらしい。
(“デート”……って言うからには、僕が“女”に見えてるってことかな?) |