――町の一角に、人集りが出来ている。
阿鼻叫喚の叫びが聞こえた其処は、馴染みの店……ルイーダの酒場だ。一通り買い物を済ませたライが喧騒に足を止め、手近な所にいた野次馬へ「何事か」と訊ねた。
「武闘家と魔法使いが喧嘩してるんだ。こいつは、ちょっとばかり見物だぜ」
ニッと笑う野次馬。それを聞くなりライの顔から血の気が引く。何故なら、リョウと別行動をとっていたからに他なら無い。
(そんな馬鹿な事、リョウがするなんて思えないけど……)
微かな不安に駆られ、店の中に入った途端、驚きに開いた口が塞がらなくなった。
(な、何……これ)
店の中は燦々たる有様だ。上下反対にひっくり返ったテーブル。割れた酒瓶が散乱し、冒険者らが敷物の如く其処彼処に倒れている。その中央で、男二人が顔を突き合わせ睨み合い、見るからに穏やかな雰囲気では無い。正に“一触即発”といえよう。
一人は、筋肉質な体躯と弁髪。面立ちは下品だが、装いは一目で武闘家と分かる。
(よかった。リョウじゃない……)
もう一方は、魔法使い。
ライの位置からはそちらの男の顔は見えなかったが、随分と若輩な印象を受けた。
それもその筈。男の身長は平均に比べ、かなり低い。黒革のスーツの上に、ローブを着ていたが、何故かその色は流通している若葉色では無く、野暮ったいカーキ色である。……余り良いセンスとは言えない。 |