小説(雷霆) | ナノ
金色の瞳 紺碧の瞳(3/8)
 
 ――町の一角に、人集りが出来ている。

 阿鼻叫喚の叫びが聞こえた其処は、馴染みの店……ルイーダの酒場だ。一通り買い物を済ませたライが喧騒に足を止め、手近な所にいた野次馬へ「何事か」と訊ねた。

「武闘家と魔法使いが喧嘩してるんだ。こいつは、ちょっとばかり見物だぜ」

 ニッと笑う野次馬。それを聞くなりライの顔から血の気が引く。何故なら、リョウと別行動をとっていたからに他なら無い。

(そんな馬鹿な事、リョウがするなんて思えないけど……)

 微かな不安に駆られ、店の中に入った途端、驚きに開いた口が塞がらなくなった。

(な、何……これ)

 店の中は燦々たる有様だ。上下反対にひっくり返ったテーブル。割れた酒瓶が散乱し、冒険者らが敷物の如く其処彼処に倒れている。その中央で、男二人が顔を突き合わせ睨み合い、見るからに穏やかな雰囲気では無い。正に“一触即発”といえよう。

 一人は、筋肉質な体躯と弁髪。面立ちは下品だが、装いは一目で武闘家と分かる。

(よかった。リョウじゃない……)

 もう一方は、魔法使い。

 ライの位置からはそちらの男の顔は見えなかったが、随分と若輩な印象を受けた。

 それもその筈。男の身長は平均に比べ、かなり低い。黒革のスーツの上に、ローブを着ていたが、何故かその色は流通している若葉色では無く、野暮ったいカーキ色である。……余り良いセンスとは言えない。
 


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