小説(雷霆) | ナノ
闇を駆ける馬 暁に鬻ぐ猫(18/29)
 
「止せ。君は、何故にそう思ったのだ?」

 リョウの炯眼で射ぬかれ怯んだようだ。

 男の陰鬱な濁りをした目が床へと向けられる。……稍もして、唇が語りに動いた。

「おれは曾て、バラモスと対峙したことがあるからさ」

「えっ、嘘!?」

 思わず声を上げたライを一瞥すると、男は鼻息を飛ばし「本当だ」と目を伏せる。

「おれはカルロス。軍人だった当時、陛下の勅命により、戦い、そして敗れたんだ」

 カルロスが挑んだ時は、単身だったという。故に四人も揃いながら、未だポルトガにいるというのが“確証”だと、笑った。

「信じられん。よく生きて帰れたな」

「うん。悪いけどカルロスさんって……」

 ライは、チラリと斜眼で盗み見しながら“弱そうに見える”と、言葉を飲み込む。
 軍人は疎か、冒険者さえも見えない。カルロスの風貌は、精々破落戸がいい所だ。

 仮にも、相手は魔王バラモス。五体満足で帰されたこと自体が、甚だ疑問である。
 


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