小説(雷霆) | ナノ
闇を駆ける馬 暁に鬻ぐ猫(16/29)
 
「いったい何があったというのだ。公の場で迷惑だろう」

「邪魔すんじゃねぇよ。沽券が懸かってるんだからよぉ!」

 リョウの睨みを受けて、ガイラスは多少臆したが、喧嘩を止める意向は無い様子。
 一方の喧嘩相手はリョウの頭から爪先へ視線を這わすと、ペッと唾を吐き捨てる。

「この大男、おっさんの仲間か?」

「俺ぁ、おっさんじゃねぇよ!」

 熱り立つガイラスを余所に、男の意識はリョウへ移ったようだ。詰め寄り、突き飛ばしたが、リョウは当然ビクともしない。

「チッ、顔に似合わず頑丈な男だな」

 突如として、男が剣を抜く。

 ガイラスとリョウ相手に戦うつもりらしい。無謀というか、身の程知らず。止めなくては男が命を散らすのも時間の問題だ。

「あんたらの行動が、馬鹿げてるってことを、このおれが思い知らしてやるよ!」

「リョウは手出しすんな。俺ぁ、こいつの鼻っ柱折ってやらな気が済まねぇんだ!」

 一触即発の事態の中、リョウがフッ優美な笑みを浮かべ「止むを得ん」と、一言。
 男が二人に向かい切り掛かった丁度その時、フワッと辺りへ白檀の香りが散った。
 


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