小説(雷霆) | ナノ
闇を駆ける馬 暁に鬻ぐ猫(12/29)
 
「良い人達だった。俺を保護し名を付けてくれた。武術の基本を教えたのも彼らだ」

 海賊船では、三年近く世話になったという。多感な少年期、その時期に受ける事は人格形成へ多大な影響を残すというもの。

 ライから見て、リョウは“非の打ち所がない”と、言い切れる高潔な人格である。
 延いては教育を成した海賊達が相応の人格者だったと――そう容易に想像できた。

「その人達と何で別れたの?」

 窺うライと目が合うと、僅か逸らす。

 視線を移した先。海へ馳せられたリョウの瞳は、度々見せる炯眼へと光を変える。

「俺の記憶に残されていたのは何者かが言った……」

 ……“魔王様から任命を受けた吾を倒すことが叶うのは神に認められた勇者のみ”

「……その言葉と、ならば諸悪の根元を絶たねばという己の意志のみだった」

「だから、リョウはアリアハンに……」

「ああ、だが俺は自分の事すら分からない人間だ。首領にも、充分に力を蓄えてからでなければ意志も無駄だと教えられたよ」

 その意志を確たるものとする礎に、首領がダーマ神殿へと向かわせたのが二年前。
 バハラタで暮らしたのは、ライが出立する丁度一ヶ月前迄だと、聞かせてくれた。
 


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